『私の頭の中の消しゴム』
(原題:내 머리 속의 지우개)

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清々しい正統派ロマンス映画が誕生した。

チョン・ウソン、ソン・イェジン主演作『私の頭の中の消しゴム』は、『手紙』や『接続』『約束』など、1990年代後半の韓国映画のスクリーンを彩ったロマンスを上手く受け継いでいる。この映画はドラマ、スタイル、主演俳優たちの演技などすべての出来が良く、90点以上の評価に値する。お涙ちょうだい系だが無理やりなこじつけはなく、一般的だがそれなりの新鮮さが盛り込まれている。スター性はA+、商業ロマンス映画として、これ以上の評価が今まであったろうか?物語の最後がちょっと物足りないとしても、全般を通して見ればさほど差し支えがない。


「お前は自信満々だな。人生がどれだけ恐いものか知ってるか?」

映画の中でチョルス(チョン・ウソン)とスジン(ソン・イエジン)が、代わりばんこに言うこのセリフは、一般的な恋愛映画を象徴している。予想通りだが愛はピンクではなく、2人の主演俳優はそろって涙を流し合う。チョルスとスジンは“身分の差”を乗り越え無事結婚するが、スジンが27歳でアルツハイマーという病にかかり、不幸が訪れる。

しかし、映画はそういう“定番さ”を払拭させるだけの色がよく使われている。いつしか燃えるような紅葉がパッときれいに映し出され、見慣れたラブロマンスがそうであるように、観客を引き込む。珍しいことに、脇をきっちり固めるべき助演たちが鑑賞の邪魔になるのが気にかかるが、とにかく主演俳優が良くできていて、この映画の質をぐっと押し上げている。


「俺が代わりに全部憶えていてやる。俺がお前の記憶であり、魂だ」

チョルスが自分のもとから去ろうとするスジンをなぐさめようと口にする言葉。この言葉が“鳥肌が立つような”言葉に聞こえないのは、2人が愛しあう過程にそれだけ説得力あるからだ。

妻のある男性上司と駆け落ちしようとして捨てられたスジンが、働き者の見本のようなチョルスと恋に落ちる細々としたエピソードと、CMのようなシーン(実際にチョン・ウソンがスーツを身に着けて出ている某CMを連想させる)が相乗効果となって、見る者は主人公に感情移入させられる。

そういった面からこの映画は、ロマンス映画では男女の主人公のスタイルと演技の波長がどれほど重要なのかを、改めて教えてくれる。チョン・ウソンとソン・イエジンが一緒にいる姿は、一つの完成されたCMのようであり、単なるイメージを越えて、本当にお互いが恋に落ちたような錯覚を起こさせる。それと同時に、彼らにはまっていくようになる。感情移入が出来を左右するラブロマンスとしては、彼らよりも相性のいい2人はいない。映画『約束』でチョン・ドヨンとパク・シニャンが見せた、あのピッタリと呼吸が合った時のように、最高の相性だ。

チョルスを前にしても、昔の恋人“ヨンミン”の名前を呼んでしまうスジンの姿に、チョルスも観客もスジンも、皆切なくならずにはいられない。


「私の頭の中の消しゴムが、あなたさえ消してしまうんじゃないかって、とても恐い!」

映画は、死よりもっと苛酷な“忘却”をテーマにしたという点で斬新だ。日本テレビで放送された12部作ドラマ『ピュア・ソウル』を原作にしたこの映画は、若くしてアルツハイマーという病を抱えた女性が、彼女を愛する人さえ見分けることができなくなる、残酷な現実を描いている。その点でいえば、ヒロインが白血病にかかったハリウッドの“クラシックラブストーリー”の典型的な物語とは違っている。

この映画の監督は“催涙性”という表現を否定している。
短編『The Cut Runs Deep』で注目されたイ・ジェハン監督は「単に涙腺を刺激するのではなく、長い間悲しみがリフレインする、そんな映画が作りたかった」と語った。

実際に観客の悲しみを増幅させるチョン・ウソンの慟哭シーンなど、数カットが編集でカットされた。感情をセーブするための、監督の選択である。

この映画の一番惜しいところは、CMのような映像でも、記憶に残る音楽がないということ。耳を捕らえるような音楽があったら、完全に没頭させられただろうに、その部分が弱かった。

そこは新人監督のツメの甘いところだが、この程度であればウェルメイド商業ラブロマンス映画として、なんら遜色はない。

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