【インタビュー】キム・ジェジュンも読んだイラストエッセイ『あなたを応援する誰か』著者のソン・ミファさんが語る「わがままに生きることの大切さ」
【インタビュー】キム・ジェジュンも読んだイラストエッセイ『あなたを応援する誰か』著者のソン・ミファさんが語る「わがままに生きることの大切さ」
韓国で2013年に刊行後、27刷りのロングセラー『あなたを応援する誰か』。ジェジュンがSNSに本書の「利己的でも大丈夫」というページをアップし、RMの愛読書としても話題となりました。

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30歳を目前に本書を執筆したソン・ミファさん。「わたし自身が経験したつらいことや悩んでいた時のことを思い出しながら書きました」というソン・ミファさんが語る、「わがままに生きることの大切さ」とは。


Q.『あなたを応援する誰か』は、ソン・ミファさんの最初の本です。本書に載っている文章を書き始めたきっかけを教えてください。

もともと文章ではなく、絵を描いていました。大学を卒業してから小さな子どもたちにアートで遊ぶ講座の講師として働きながら、悩みを抱えた子がアートで変化するのを目の当たりにしました。そのうちに、絵と文章で誰かを癒し、思いを分かち合える本を出版できたらいいなと願うようになったんです。出版してくれる会社を自分で探したのですが、10年前は、イラストエッセイがまだあまりポピュラーではなく……。出版エージェントや関係者が参加する集まりに顔を出し、勇気を出して「こんな企画はどうでしょう?」と提案しました(笑)。関心をもってくださった方が、出版社を紹介してくださって本を出すことができました。


Q.韓国では大手書店の「プレゼントに選ばれた本年間ベスト3」にランクインし、ステディーセラーになっています。読者の反応はいかがでしたか。

読者の方から、メッセージをもらったことがあります。その人は、心がとても落ち込んでいて、病院に相談に行った帰りに本屋を見つけて入ったときに、『あなたを応援する誰か』を見つけて、一気に読んだそうです。そうしたら心がとても穏やかになって、すごく良かったと。そのメッセージを読んだ時のことは鮮明に覚えています。どこかに行くために地下鉄に乗っていて、「あ、メッセージが来た」と開いた瞬間、泣きそうになりました。

また、出版社を通じてわたしにメールを送ってくれた人もいました。男性の方です。会社がつらくて、体調が悪くなったというその人は、小さな子どもがいる家長として未来がすごく不安で、悩んでいました。そんななか、『あなたを応援する誰か』を読んで、救われた、と。わたしのSNSにもメッセージを書いてくれる人もいます。著者にメッセージを送るというのは、勇気がいることですよね。そういうメッセージをもらうたびに、もっと良い作品をつくりたいと思うんです。


Q.ジェジュンさんが「利己的でも大丈夫」のページをSNSでシェアしたことがありました。

すごく驚きました。ありがたい気持ちでいっぱいです。わたしのイラストと文章が、少しでも癒しになったのであれば、とてもうれしいです。


Q.「利己的でも大丈夫」は、「もう少しわがままになっていい」という言葉が印象的なエッセイです。どんな気持ちでこの文章を書いたのでしょうか。

10年前は、30代になるタイミングでしたが、当時のわたしはわがままになれなかったんです。やりたいことややらなければならないことがたくさんあって、ひたすら前だけを見て走り、周りの人との関係にも気を使いながら生きてきた。でも、一生懸命やってもうまくいかないこともありますよね。人間関係で傷ついたり。自分と誰かを比較していたんですね。SNSを見ながら、「あの人は幸せそうなのに、わたしはどうしてこんなふうなんだろう」って。でも、考えてみたら、それぞれの生き方は違って当然だし、幸せそうに見えても実際はどうかわかりません。それなのに、自分を責めてばかりいたんです。

だから、自分を愛する方法について深く考えるようになったんです。「利己的でも大丈夫」というのは、自己中心的という意味とはちょっと違います。自分を愛してこそ、余裕が生まれ、誰かを心から愛することができる。ある瞬間、そのことに気づいてから、「ああ、自分を愛する方法を知らなかったからうまくいかなかったけど、少しずつ努力して自分を大事にする術を学んでいこう」と思うようになったんです。


Q.本書の中でソン・ミファさんが一番好きな文章はどれですか?その文章を書いた背景について教えてください。

「最初」というタイトルのエッセイです。その中に「ありもしない未来を恐れる必要はない。明るい夢を抱けば、何かが生まれるはずだから。それに、もし何かが起きても、きっと乗り越えられるはずだから」という部分が好きです。本を読むたびに好きな文章が変わるのですが、いまは3月ですよね。一年の始まりだからかもしれませんが、この文章が心に迫りました。これは、自分自身にかけた言葉だったんです。わたしはすごく怖がりなんです。何かを始める時に「どうしよう」と心配して、友達に相談したり。このインタビューの前も、ドキドキしていました(笑)。でも、実際にやってみると、乗り越えられることが多いんです。昔も、いまも。だからわたしは何かを始める時に、「きっと乗り越えられるはず、大丈夫」って自分に言うんです。そんな気持ちを文章にしました。わたしだけでなく、何かを始める時になかなか一歩を踏み出せない人を周りでたくさん見てきました。だから、この言葉が誰かにとって応援の言葉になるんじゃないかな、と思ったんです。


Q.日本のイラストレーターや作家で好きな人はいますか?影響を受けた日本の本や映画などがあれば教えてください。

幼いころから日本のカルチャーが好きで、多くの影響を受けています。益田ミリさんの本がとても好きで、出版されたものはすべて買い、何度も読みました。ジブリのアニメのDVDをたくさん持っていて、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』『風の谷のナウシカ』などを何回も観ました。日本の映画も好きで、『ラブレター』は、毎年冬になるたびに観ています。

日本には独特の色合いがあると感じています。清潔感があり、原色ではなく、すごくあたたかい。もしかすると冷たいかもしれないけれど、あたたかい。抽象的なので、うまく伝わるかわかりませんが……そんな日本の色合いが大好きなんです。


Q.日本に来たことはありますか。お気に入りの場所や、次回訪れたらやってみたいことを教えてください。

是枝裕和監督の作品が好きで、『海街diary』のロケ地鎌倉を訪れたこともあります。『海街 diary』に登場するお店に行ってシラス丼を食べたり、自転車に乗って海辺を走ったり。『SLAM DUNK』に出てくる踏切を見て不思議な気持ちになったり。


Q.『SLAM DUNK』も好きなんですね。
はい。今、映画が人気ですが、学生時代にもすごく流行っていたんです。『SLAM DUNK』は、ライバルでも悪い人はいませんよね。イラストを描くときのポジティブな姿勢も、もしかすると『SLAM DUNK』』の影響を受けているかもしれません(笑)。


Q.3月は、日本では学校や仕事など、新しいことに向けて動き出す季節になります。新しい未来に向かう人に、本書からおすすめの文章を教えてください。

わたしは「やり直せばいい」という言葉が好きなんです。何度もやり直すことで、自分に新しいエネルギーが湧き、想像もしなかった新しく面白いことが起きるかもしれない。だから、「やり直す」ことを怖れずに、一歩を踏み出してほしいと思います。そばにいる誰かをお互い応援しながら。

“はじめての場所に行くときは
道を間違えてはいないかと、何度も地図を確かめる。
周りをよく見て、標識通りに進み
道を尋ねたりもするけれど、
それでも、
とんでもない場所にたどり着いてしまうことがある。
そんなときわたしは、出発点に戻って道を探し直す。
方向音痴だから
ちょっとは焦ってまごつくけれど、
また同じ道を進む過ちは繰り返さない。

次に進んだ道がまた間違っていたとしても
最初にいた場所に戻って、出直せばいい。

目的地までたどり着くのに
時間が少し余計にかかるだけ。
やり直せば、それでいい。

苦労してやっと見つけた道ならば
二度と迷うことはないはずだから。”

取材、文・桑畑優香


【著者略歴】
ソン・ミファ
画家。エッセイスト。1982 年生まれ。美術学校に通いアートセラピーを学ぶ。他書に『わたしの不器用なやさしさがあなたに届きますように』『どんな日でも慰めは必要だから』(いずれも未邦訳)がある。

桑畑優香 (訳)
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースス テーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に映画レビュー、K-POP アーティストのインタビ ューを寄稿。『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(小社刊)、『BTS を読む』(柏書房)など 訳書多数。

【書籍情報】
書名:あなたを応援する誰か
著者:ソン・ミファ
発行:2023 年 1 月 31 日
判型:四六変型判
ページ数:240 頁
刊行:&books(辰巳出版)

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