東京ギンガ堂劇団の品川能正代表は、現金4万円と外国人登録証だけを残したキム・ベクシクさんの死を取り上げた2004年3月28日付の朝日新聞記事を読み、2005年にソウル市劇団とともに演劇『沈黙の海峡』を制作した。それから4年、品川代表は同作品をミュージカル『沈黙の声』として制作し、再び演出を務めた。
「記事を読み、朝鮮人ながらも日本人として戦争に参加せざるを得なかった60年前の歴史による被害者がいまだ残っている事実に、非常に驚きました。これを舞台に上げ、若い人たちに歴史を伝えるとともに、こうした歴史を決して忘れてはならないとのメッセージを伝えたかったのです」。
作品は、戦争に徴用された朝鮮青年と日本女性のラブストーリと、老人となった青年の疲れきった精神を治療する日本人セラピストの物語を、過去と現在を行き来しながら描く。より多くの観客にみてもらうため、やや重いテーマをエンターテインメント要素の強いミュージカルに企画したという。基本の骨組みは同じだが、演劇『沈黙の海峡』が戦争を背景にした韓国男女の愛を描いたのに対し、ミュージカルではヒロインを日本人に設定した。当時の時代的背景に合わせ、アジア版『ロミオとジュリエット』のように切ない恋を描いたと、品川代表は説明した。
ヒロインは日本ミュージカル俳優の姫咲ひなのが務める。姫咲はこの作品に参加することで、直接経験できなかった韓日間の歴史を知ることになったとし、「目をそらしたくなる事件もあったほど衝撃的だったが、実際にあった歴史のため、そのまま直視しようと思った」と語った。また、これは韓国と日本のどちらか一方だけではつくることのできない作品だと指摘した。日本人が韓国人の立場を演じても感情を表現しづらく、その反対も同じだとした。
韓日間の歴史を取り扱った作品を相次いで舞台に上げる品川代表は、日本に対する韓国人の感情がそれほど簡単ではないことを感じたと話した。日本で脚本を書きながら、韓国人ならこう思うだろうと予想したことが、実際に韓国に来てみると異なったという。徴用に対する悔しさだけではなく、まだ解決されていないさまざまな事件や独島(日本名:竹島)問題など、また別の問題が存在しており、言葉では説明できない感情があることを知った。
姫咲は、言葉が通じず民族は異なっても、共通で持つ感性は大きな違いがないとし、韓国俳優との共演は、感性的にうまく通じ合っているため楽しいと話している。また、忘れられていく歴史の中でこの作品は大きな意味があるだけに、両国の観客にその意味をうまく伝えることができれば幸いだと言い添えた。
公演は20日までソウル・世宗文化会館Mシアターで行われる。10月の1か月間は東京、福岡など日本6都市を巡回する。
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