韓国では、1948年の建国以来、独立運動記念日(3月1日)や、光復節(8月15日)といった慶祝日などに合わせてたびたび赦免が実施されてきた。2021年には、収賄などの罪で懲役22年の実刑が確定し服役中だったパク・クネ(朴槿恵)元大統領が新年の特赦の対象となり、同年12月31日に釈放された。ユン・ソギョル(尹錫悦)前政権では2022年8月、収賄罪などで有罪判決を受けたサムスン電子のイ・ジェヨン(李在鎔)副会長が「光復節」に合わせた特赦の対象となった。同年12月には、収賄罪などで懲役17年の実刑判決を受けたイ・ミョンバク(李明博)元大統領が対象となり、釈放された。
6月に就任した李在明大統領は今月15日、初めての特赦を実施した。政治や経済関係者ら2188人が対象となった。このうち、主要公職経験者は27人で、対象者にチョ・グク元法相や、与党「共に民主党」の元国会議員で、慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」のユン・ミヒャン前代表も含まれたことに、とりわけ注目が集まった。
チョ氏は子どもを不正入学させたことなどに絡み、昨年12月に懲役2年が確定し、服役していた。2019年9月に当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領から法相に任命されたが、子どもの不正入学疑惑が浮上したことで、わずか1か月ほどで辞任に追い込まれた。チョにはその後もさまざまな疑惑が持ち上がり、当時、追及しても疑惑が絶えないことから世間からは「タマネギ男」と揶揄された。
チョ氏は15日、ソウル南部拘置所から242日ぶりに出所し、「決断を下した李在明大統領に深く感謝する」と述べた。チョ氏は今後、自身が立ち上げた革新系野党「祖国革新党」の代表に復帰するものとみられている。
ユン・ミヒャン氏は慰安婦支援団体「正義連」への寄付金を横領した罪などに問われ、昨年11月に懲役1年6月、執行猶予3年が確定したが、今回の特赦により復権した。ユン氏は特赦に先立ち、自身に下された有罪判決についてSNSを通じ改めて言及。「納得できない」とした。ユン氏はこれまで世間の厳しい批判を受けてきたが、「私を罵(ののし)る人たちは本当に哀れだ。私はこれからも一歩も揺るがず、やるべきことをやっていく」とした。
今回の特赦について、韓国紙のハンギョレは、「議論を呼ぶ政治家が多数含まれた点で、大統領の就任初の赦免としては異例との見方が広がっている」と伝えた。とりわけ、チョ氏やユン氏が特赦となったことに、疑問や批判の声が出ている。野党「国民の力」の有力議員で、近く行われる党代表選にも出馬しているアン・チョルス(安哲秀)氏は、「赦免するには不十分なチョ・グク、ユン・ミヒャンを赦免するとは、若者やこれからの将来を担う世代にどう説明すればいいのか。罪を犯しても権力を握ればその罪が軽くなるということを自ら示しているようなものだ」と批判した。尹氏を相手取り、慰安婦に出した寄付金の返還を求めている慰安婦支援団体は11日、声明を発表。「ユン・ミヒャン元議員は、慰安婦被害者関連の寄付金などを指摘に横領した罪が大法院(最高裁判所)で確定したが、その後も寄付金の返済に応じず、原状回復を拒否している」とした上で、ユン氏の恩赦は、「慰安婦の支援者らの気持ちを踏みにじるものであり、支援者を愚弄(ぐろう)する行為だ」と非難した。
一方、韓国大統領室は11日、「李在明大統領は、国民統合という時代の要求に応え、国民生活と経済に力を与えるため、今回の赦免案に共感を示した。各界各層の意見に耳を傾けながら熟考を重ねた」と説明した。
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