北朝鮮は9日から拡声器の撤去を始めた。韓国軍が4日から5日にかけて南北軍事境界線付近に設置していた対北朝鮮宣伝放送用の拡声器を撤去したことに呼応した措置とみられる。
李在明(イ・ジェミョン)政権発足後の6月には韓国軍当局が拡声器を使った宣伝放送を中止。放送中止後、北朝鮮は韓国向けの「騒音放送」を停止しており、李政権の先制的な融和措置に北朝鮮が相次ぎ反応しているといえる。
北朝鮮は2023年4月に南北の連絡チャンネルを一方的に遮断。同年末には南北関係を「敵対的な二つの国家」と位置づけ、以降は韓国側の呼びかけに無視を貫いていた。
韓国・北韓大学院大学の梁茂進(ヤン・ムジン)総長は北朝鮮の拡声器撤去について「李在明政権の能動的な先制措置に対する北の受動的呼応」と説明。軍事的な敵対行為を暫定的に中止する方向に向かう可能性を内包しているとの見方を示した。
朝鮮半島有事を想定した定例の韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(UFS)」(18~28日)の計画が7日に発表された後に北朝鮮が拡声器の撤去を始めたことも注目される。
北朝鮮は同演習について「北侵戦争演習」と非難し、弾道ミサイル発射などで強く反発してきた。慶南大極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授は、演習の日程が発表されたにもかかわらず北朝鮮が拡声器撤去に動いたのは「異例的で注目すべきだ」と指摘した。
演習期間に実施される野外機動訓練の一部が来月以降に延期されることが、北朝鮮のこうした動きを誘導したとも指摘される。延期の理由として猛暑が挙げられたが、北朝鮮が演習に強く反発してきたことも考慮されたとの分析もある。
ただ、こうした流れが南北の対話再開につながることは容易ではないとの見方が大勢を占めている。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長は先月発表した談話で「韓国と向き合うことも、議論する問題もない」とし、韓国とは「同族という概念を完全に脱却した」と主張。李在明政権との対話を拒絶した。
実際、北朝鮮は軍事的緊張の緩和措置には呼応したものの、対話チャンネルの復旧には一切応じていない。海上の南北軍事境界線にあたる北方限界線(NLL)を漁船で越えて韓国側に救助された北朝鮮住民の送還や、南北境界線付近の仁川市江華郡で発見された北朝鮮住民と推定される男性の遺体引き渡しの要請に、北朝鮮は反応を示さなかった。
韓国の政府系シンクタンク・統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)研究委員は金与正氏の談話について「南北は統一を志向する特殊関係ではなく、国対国の関係だという意味」と指摘。「国対国として外交関係を樹立するなら対話に乗り出す可能性があるが、南北対話には応じないだろう」との見方を示した。
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