数百万の人々が共感した映画の感動は、母親の涙ぐましく絶え間ない関心と励まし、そしてチョウォンが人間の限界に思われていたことに挑戦することから始まる。
これと相まって、忍耐と節制、根性と果てしない孤立の中で、世の中と向き合い、自分を開いていくことを、マラソンから感じ始めたチョウォンは、小さい可能性がついに響かせた大きな轟きの美学を見せている。
マラソンは世の中に向けて一歩一歩歩み寄る通路であった。自己発見と世に対する認識、そして世の中と自分が心を通わせあう行為そのものでもあった。少しずつ、自分で自分を開いていく力を、マラソンから体得していく。
自閉児のチョウォンにとって、母親とマラソンは、世界に向かう道そのものだ。しかし、母性主義とマラソンに対する絶賛が、現実において究極的な手段であるかは考えてみる必要がある。自閉症が健常者と同じだという認識の転換にばかり留まることにも“転換”が必要だ。
映画の中の空間で暖かさを感じ、再び現実に引き戻されて見ると、現実はそう暖かいものではないということが感じられる。
物語の原点は、自閉症を患っている人と家族である。映画でのように、母親やマラソンにだけ頼って問題を解決せよ、といわれたとしたら、現実は映画と違って過酷なものになるだろう。映画は母親の献身的な努力だけで自閉症の問題が解決されるという誤解を与えてしまうかもしれない。
しかもマラソンさえやれば自閉症が治るとしたらどんなに良いだろう!と思っているのである。このため、映画『マラソン』の感動が大きければ大きいほど、現実的な手段に対する関心へとつなげていく必要性ができてくる。個人の力だけでは大変なので、社会的な支持と制度、方案の模索が大事だからだ。
だからこそ、制度的な介入や政策プログラム、予算執行が切実に必要である、という事実をもう一度はっきりさせてから進まねばならない。
韓国の自閉児はおよそ4万人と推算されており、このうち20%は重度の症状であるといわれている。大体5千~6千人は、重症であるために専門的な治療を受けたり、機関の保護が必要というわけだ。
自閉児は、症状初期は一日8時間、一週間で40~50時間で2年に及ぶ集中的な治療を受けると完治できると言われている。しかし韓国の自閉児治療機関は途方も無く少ない。ひどい場合、自閉症かどうかも分からないまま、治療時期を逃してしまうことが多いという。
だが、自閉症の疑いがあるとしても、まともに相談出来るような制度的装置が構築されていないのが現実である。このため、本人や家族たちが味わう苦痛は筆舌に尽くしがたい。
母親の愛情や家族たちの支え、マラソンの力だけでは力不足であることは明白だ。初期に、このような制度的装置が用意されていたならば、『マラソン』のような映画が出るはずも無いだろうが、当事者たちの苦痛もひどく無かっただろう。
しかしこのような制度的装置や方案を模索し、反映させていくはずの政策担当者や政治圏ではあまり関心が無いように見える。
昨年末、“重症自閉児治療モデル開発”に必要な1億8千万ウォンを盛り込んだ予算案が、国会保健福祉常任委員会を通過している。試験的ではあるが、自閉児の自害行為治療と専門治療師養成を目標とする3ヵ年プログラム運営プロジェクトに使われる初めての予算だ。
金額からすると、たいしたものではなさそうだが、その意味は大きく、全国の自閉児家族と関連団体の専門家は大喜びした。しかし、このような喜びもしばらくで、やっとのことで通過した予算案は予決委の審議過程で、いつそんな事があったのか、といわんばかりに消えてしまった。
映画『マラソン』の感動が大きすぎたのだろうか?あまりに感動が大きすぎてマラソンと母親の愛情さえあれば自閉児の問題が解決されたと思ったのだろうか?それとも映画が示した問題意識を汲み取れなかったせいだろうか?
汲み取れなかったのなら、今からでも国会レベルで映画を団体観覧せよ、と勧告するべきであろう。それが無理なら『拝啓ご両親様(父母様前上書)』のジュニもいる。映画の文化的感動を制度的に実現させる“マラソン”はこれからが始まりなのかもしれない。
今は、映画の感動が制度的な感動に繋がるので、まだその基盤冷めたままだ。障害者の日である今日も、冷たい現実に、多くの人たちが苦しみの声を上げ、涙している。しかし惰弱な様子ではない。
今この瞬間にも、自閉または身体の不自由を乗り越え、絶えず挑戦する“人生マラソン”は数知れず行われているという事実が、その可能性を信じさせる。“人生マラソン”こそ自活福祉文化の改善を進化させ続けてきた力だからだ。
何より、私たちみんなの関心と支えは、閉鎖と湾曲からいつでも開放と疎通へ向かうことのできる橋の礎であることを忘れてはならない。
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