今月23日、韓国のイ・ジェミョン(李在明)大統領が6月の就任後初めて来日し、石破茂首相と日韓首脳会談を行った。両首脳は未来志向の日韓関係発展に向けた協力を推進していくことで一致。会談の成果をまとめた「共同文書」を17年ぶりに取りまとめた。今回の李氏の訪日に同行したウィ・ソンラク国家安保室長は24日、「首脳間の個人的信頼関係が強化された」と成果を強調した。一方、元慰安婦・徴用工支援団体などは、歴史問題について進展がなく、日本に譲歩し過ぎたとして、批判している。だが、李氏は「歴史問題でも若干の進展はあったと思う」とし、「(日本との)相互の信頼と期待を高めた」と強調した。会談について、韓国メディアの評価も様々で、東亜日報は、「両首脳は両国関係の後退を防ぎ、未来協力のビジョンの下で、関係を進展させることにした」と評価。一方、ハンギョレは25日付けの社説で「李大統領は今回の訪問を終えた後、日本との関係改善を通じて何を得て何を失うことになるのか、冷静に振り返ってみてほしい」と求めた。

今回の李氏の初来日は、首脳の相互往来「シャトル外交」の第1弾と位置付けられた。日韓シャトル外交とは、日本の首相と韓国の大統領が相互に訪問し、両国間の課題を話し合おうというもの。両国の関係悪化で長らく途絶えていたが、日本との関係改善を図ったユン・ソギョル(尹錫悦)前政権時の2023年5月、12年ぶりに再開した。今年6月に大統領に就任した李氏も、大統領選で当選した際、できる限り早く日本を訪れたいとの考えを示していた。

会談は約2時間行われた。初めに同席者を限定した少人数の会議を行い、その後、拡大会合を実施した。冒頭、石破氏は「非常に厳しい戦略環境の下、最初に日本を訪問していただき、大変心強い」と述べた。これに対し、李氏は「それほど韓日関係を重要視しているとご理解いただければ」と応じた。

会談で両首脳は1965年の日韓国交正常化からこれまで築かれてきた基盤に基づき、両国関係を安定的に大きく発展させていくことで一致した。また、北朝鮮の核・ミサイル開発の抑止に連携して取り組む方針を確認したほか、経済や文化交流、少子高齢化への対策など幅広い分野で関係強化を図っていくことを申し合わせた。人的交流のさらなる拡大に向け、ワーキングホリデーの制度を拡充することも合意した。

李氏は日本に対して、長く強硬的な言動を続けてきたことで知られる。日本との友好路線を築いた尹前政権で、最大野党の代表だった李氏は「屈辱外交」と尹氏の対日政策を批判してきた。しかし、6月に行われた大統領選に出馬した李氏は、当初から最有力候補と目され、自身が韓国のリーダーとなることが現実味を帯びるや、「対日強硬的」な発言を封印。大統領選が迫った5月にSNSに投稿した動画では、日韓関係に言及し、「私は本当に日本と仲良くしたい」と述べ、文化交流や経済などの分野で日本と協力を進めたい考えを示していた。大統領となった李氏は「実用外交」を掲げており、歴史問題に関しては、過去の政権での合意や解決策について踏襲する考えを示している。今回の会談で、石破氏は「(植民地支配への反省とおわびを盛り込んだ)1998年の日韓共同宣言を含め、歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」と伝えた。これに対し、李氏は「難しい問題は難しい問題として扱い、一方で協力できる分野では協力する」と述べた。

会談から一夜明けた24日、李氏の訪日に同行したウィ国家安保室長は「大統領就任から2か月でシャトル外交を早期に復元し、韓日米の協力を強化できたことに意義がある」と会談の成果を強調した。一方、歴史問題については、少人数の会合で議論があったと明らかにし、「具体的な懸案というよりも、問題をどう扱うことで現在や未来の協力を推進できるかという議論だった」と説明した。

だが、元慰安婦や元徴用工の支援団体は今回の会談について一斉に批判した。「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」は「実用外交という名分に歴史と正義が隠されてしまった」と遺憾を表明した。「民族問題研究所」は「歴史と正義に背を向けた会談結果だった。失望を禁じ得ない」と表明した。

こうした批判が出ていることについて、李氏は24日、大統領専用機内で開いた記者会見で、「そのような指摘を受ける覚悟もした」とした上で、「歴史問題でも若干の進展はあった」と反論。「理解が深まってこそ歴史問題でより前向きな措置ができると思う。少し時間をもらえれば歴史問題や領土問題で目に見える成果が出せる」と述べた。

今回の会談内容について、韓国メディアの評価は分かれている。韓国紙の朝鮮日報は25日付けの社説で、これまで与党「共に民主党」が示してきた「反日」傾向に照らしてみると「異例」とし、「(反日色が強い)支持層の感情より、国益を優先して考慮する李大統領の外交選択がこれからも続くことを期待する」とした。東亜日報は「両首脳が政権交代に関係なく、両国関係の連続性、さらには持続可能性を模索した会談として記録されるだろう」とした。一方、ハンギョレは同日付の社説で。「韓国にとって重要な『歴史認識』と『対北朝鮮政策』のいずれにおいても譲歩し過ぎたのではないかという物足りなさをぬぐえない」と批判。会談後に発表された「共同文書」に、「1965年の国交正常化以来、これまで築かれてきた基盤」に基づき関係を発展させるとの一文が盛り込まれたことについて、「李大統領が日本と約束した内容にそのまま従うことになれば、今後、韓国独自の『戦略的自律性』を確保することは困難になる」と懸念を示した。

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