韓国では長年、犬食文化が根付いてきた。滋養食として犬肉を煮込んだ「ポシンタン(補身湯)」が有名だ。日本の「土用の丑の日」にあたる「ポンナル(伏日)」が7~8月にかけて計3日あり、補身湯は伏日にもサムゲタン(鶏肉を使った滋養食)と並んで長年食されてきた歴史がある。
しかし、近年、若者を中心に犬食は敬遠され、この犬食文化は薄れた。「犬食用問題の議論のための委員会」が2022年、全国の18歳以上の男女1514人を対象に行った意識調査では、「犬食文化を継承すべき」との回答は28.4%にとどまった。一方、「犬の屠殺(とさつ)の合法化に反対」との回答は52.7%に上った。
2021年9月、愛犬家として知られ、在任中、大統領府の公邸で犬を飼っていた当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領が「犬の食用禁止を慎重に検討する時期」との考えを示した。このことがきっかけで、犬肉を食用とすることをめぐる議論が活発化した。
政権が変わり、文氏と同じく愛犬家として知られた当時のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、大統領選候補者の時から犬の食用自体に反対の立場を示していた。
韓国では、日本同様、飼い主は犬を家族の一員として大切にしており、愛犬ブームの中で犬のホテル、カフェ、美容院など愛犬サービス業が豊富で、愛犬と一緒に旅を楽しむツアーなども人気がある。ペットとエコノミーを掛け合わせた造語「ペッコノミー」という言葉も定着しつつあり、2015年に1兆8994億ウォン(約2096億5700万円)だったペット関連産業の市場規模は、2027年には6兆ウォンを超えるまでに成長するとみられている。
こうした愛犬ブームも後押しし、韓国国会で2024年1月、「犬の食用目的の飼育・食肉処理及び流通などの終息に関する特別法(犬食用終息法)」が可決した。当時、国会本会議で採決が行われた際、出席議員210人中、208人が賛成、2人が棄権、反対者はいなかった。法案可決当時、動物保護団体は会見を開き、「伝統という名の下で容認され、動物福祉向上の妨げになってきた犬食を終わらせる法案の可決だ。心から歓迎する」と述べた。メディアも可決を速報した。同法は食用を目的として犬を飼育、繁殖、食肉処理する行為、犬を原料に調理・加工した食品の流通・販売を禁止する。食用を目的に犬を殺した場合、3年以下の懲役、または3000万ウォン(約317万円)以下の罰金などが科される。
同案は同年8月に施行したが、猶予期間が設けられ、罰則条項は2027年2月から適用される。現在も猶予期間中だが、国や地方自治体はこれまで、食用犬の処理場や流通業者、飲食店などに支援策を講じつつ、転業や廃業を促してきた。同法では、転業する飲食店や流通業者には看板・メニュー表の交換費用として最大250万ウォン、廃業時には店舗撤去費用として最大400万ウォンと再就職支援手当として最大190万ウォンを支給するとしている。
同法施行から今月で1年が経過した。公共放送KBSが伝えたところによると、全国約1500か所あった犬を繁殖する飼育場のうち、この1年間で70%に当たる1072カ所が廃業したという。農林畜産食品部は「法律が施行されたことで、犬の食用目的での飼育の終息は不可逆的な流れであるとの認識が広がっているほか、早期廃業を目指す政策の効果が相まった結果だ」と評価しているという。
一方、これまで犬肉料理を提供してきた店からは、高齢の経営者を中心に政府の支援金は不十分だとして不満も出ている。メニューに犬肉料理がある飲食店の大半は別のメニューも扱う兼業形態で、メニュー変更による転業は比較的容易とみられるが、変更に伴い、なじみの客を失う可能性もあり、新たな客の取り込みも必要になってくる。こうしたことから、高齢の経営者からは猶予期間の終了直前まで営業し、その後、廃業するとの声も聞かれる。
ソウル市では、転業支援の申請が低調だとして、市内11の自治区が今月から10月にかけて、担当者が関連する飲食店や流通業者を訪問し、申請を促す計画だ。
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