<W解説>韓国の医学生、集団休学から授業復帰へ=政府との対立解消期待も、留年問題などが課題
<W解説>韓国の医学生、集団休学から授業復帰へ=政府との対立解消期待も、留年問題などが課題
韓国政府による、大学医学部の定員拡大の方針に反発し、集団で休学を続けてきた学生たちが今月12日、授業に戻ることを宣言した。韓国紙は「1年5か月間続いた医学界と政府の対立が収束し、医療正常化の契機となることが期待される」(東亜日報)などと伝える一方、「学事正常化までには解決すべき多くの課題が残されている」(ハンギョレ)とも指摘している。

韓国では、特に地方において医師不足が深刻となっている。医師不足を解消しようと、昨年2月、当時のユン・ソギョル(尹錫悦)政権は医学部の入学定員を2025年度から5年間にわたって毎年度2000人増やすと発表した。ユン・ソギョル(尹錫悦)前政権は、「国民の健康と命を守るため、医師の拡大はもはや遅らせることのできない時代的課題」とし、定員増の必要性を訴えてきた。

しかし、医療界はこの方針に反発。医師の全体数は足りており、不足していると言われる原因は外科や産婦人科など、いわゆる「必須診療科」の医師が足りないことにあると指摘した。これら「必須診療科」は激務な上、訴訟のリスクも高いことから敬遠されがちで、収益性の高い皮膚科や眼科、美容整形外科に医師が集中していることが結果的に医師不足を招いていると主張した。政府の方針が示されるや、医療界は研修医が集団辞職するなどして抗議の意思を示した。これにより、医療現場では通常の診察や手術に遅れが生じるなど混乱に陥った。

しかし、教育部(部は省に相当)は昨年、大学医学部の2025年度の募集人員について、全国39の医学部で前年比1497人増の計4610人とすることを確定した。当初の計画より増員幅を圧縮したが、1998年以来となる定員増を決めた。

政府の医学部定員増の方針に、研修医が集団で離職して抗議の意思を示したほか、医学部生たちの多くも反発し、休学して授業をボイコットした。3月に25年度前期の講義が始まったものの、当初、各大学の医学部は学生たちが休学した状況が続いた。政府は3月、医学部生たちの学業復帰を条件に、来年度の医学部の募集人数を増員以前の水準に戻す方針を明らかにした。これに先立ち、医学部をもつ大学40校の学長による協議体、医大協会は、政府が定員を増員前の人数に戻すならば、大学として学生を必ず復学させるとの趣旨の文書を教育部に提出した。

これを受け、学生たちはほぼ全員が復学申請をした。しかし、実際に授業に出ている学生の割合はわずかにとどまった。医師国家試験の受験を拒否する動きもみられた。

4月、政府は26年度の医学部の募集人員は定員増前の3058人に戻すと正式に発表した。しかし、2027年度以降の定員については今後、慎重に検討していく方針を示した。

先月、韓国では大統領選が行われ、選挙前は野党だった「共に民主党」から出馬のイ・ジェミョン(李在明)氏が当選した。李政権は、発足直後から医療界との対話に乗り出し、交渉の糸口を探った。李氏は大統領就任から1か月となるのに合わせて3日に開いた記者会見でこの問題に言及。対話による解決が可能だとの認識を示し、「(学生が)2学期からの復帰が可能になるよう、政府レベルで必要な状況を作らなければならない」と述べた。

そして、今月12日、医学生団体「大韓医科大学・医学専門大学院学生協会」は、大韓医師会などとともに共同声明を発表し、全学生が授業に戻ることを宣言した。医学部定員増に反発して学校を離れてから1年5か月ぶりに「復帰」を宣言した形だが、復帰時期については触れなかった。学生側は、復帰に当たり、「教育の正常化に向けた具体策の提示」、「研修環境の改善に向けた協議体の設置」を政府に求めている。

協会の宣言に、韓国紙のハンギョレは「強硬な態度を維持していた医大協が態度を変えたのは、政権交代で政府と国会との対話の場が開かれた中、留年などの学事上の不利益を最小化しようとの意図が背景にある」と解説した。キム・ミンソク(金民錫)首相13日、SNSに「大きな一歩を踏み出したことは幸いだ。(医療正常化に向けた)実現の道筋を見つけたい」と投稿した。一方、韓国紙の東亜日報は「医学部生の復帰宣言だけで学事運営が正常に行われるわけではない」と指摘。「医学部の学事過程は1年単位で運営されており、1学期を飛ばして2学期の授業を受けることはできない構造になっている」とし、「このための授業を新たに開設しなければならないが、教授陣や施設の不足で困難が予想される」と懸念を伝えた。その上で、同紙は「政府と大学は、学事の柔軟化など医学部教育を正常する対策を綿密に立てる必要がある」と指摘した。
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