青瓦台は歴代政権で大統領府として使われた。名称は、官邸の屋根が青い瓦で葺（ふ）かれていることに由来する。周辺地域には、もともと高麗時代に王族が住んでいた。日本統治時代の1939年7月、朝鮮総督官邸が建設され、1948年に大韓民国が成立すると、初代大統領のイ・スンマン（李承晩）が旧・朝鮮総督官邸をキョンムデ（景武台）の名称で官邸・公邸として使用開始。1960年12月に第4代大統領のユン・ボソンが青瓦台に名称を変更した。
現在の青瓦台はノ・テウ（盧泰愚）政権時代の1991年に完成。米ホワイトハウスの面積の3倍を超える25平方メートルの広大な敷地の中に大統領の執務室のほか、大統領と家族が住む官邸、秘書官たちが詰める建物などが建てられた。大統領執務室がある本館と秘書たちが詰める建物の距離は500メートル以上もあったことからも、その広大さがわかる。かつて青瓦台には厳重な警備が敷かれ、秘書室長ですら大統領執務室を訪ねる際には事前に電話で許可を取る必要があった。
青瓦台をめぐっては、ムン・ジェイン（文在寅）前政権の「密室政治」を批判した尹前大統領が、国民との距離を縮めたいとして「青瓦台を国民にお返しする」と宣言。2022年5月の尹氏の大統領就任式に合わせ、青瓦台の建物や敷地は市民らに解放された。青瓦台からの大統領府の移転は、ノ・ムヒョン（盧武鉉）元大統領や文元大統領も公約に掲げたが、警備や保安上の理由から頓挫。尹政権でようやく実現した。1948年の政権樹立以来続いてきた権威主義的な「青瓦台時代」を終わらせたことは、韓国現代史における大きな転換点となったと、当時、評価する声が上がった。尹前大統領は、青瓦台から約6キロ離れたソウル市ヨンサン（龍山）区にある旧国防部庁舎で執務を開始。青瓦台内にあった公邸も別の場所にした。
一方、今月4日に大統領に就任した李在明氏は、大統領選の候補者時から、「私が当選したら、いったん龍山の大統領府を使うが、青瓦台を迅速に改修して移った方がいい」と、大統領府を青瓦台に戻す方針を表明。龍山の大統領府に関しては、「盗聴や警護問題などが深刻だ」と指摘した。尹前大統領は、昨年12月に「非常戒厳」を出したことにより弾劾・罷免されたが、現在の大統領府は、その非常戒厳の「舞台」となった場所だ。現大統領府はそうした尹前政権の負のイメージが強く、この点も再移転の理由の一つになったものとみられる。その李氏は10日、大統領府を青瓦台に戻すための経費として259億ウォン（約27億円）の予備費支出を閣議決定した。
青瓦台は現在、建物や敷地が一般に開放されており、本館にある大統領の執務室や閣議用の部屋なども見学と写真撮影が可能となっているが、今後、公開が中断となる前に観覧しようと、最近は「駆け込みの見学客」が増えている。韓国メディアによると、6月の週末の観覧枠は既に予約でいっぱいだという。連日、青瓦台近くの道路は、ツアー客らを乗せた韓国バスなどで混雑している。移転に伴い、来月中旬からは予約数などが制限され、8月からは公開が中断される。
李氏は現在、尹前大統領が使用していた龍山の大統領府で執務に当たっているが、就任初日の4日、現大統領府について「まるでお墓のようだ。何もない。筆記用具を提供してくれる職員もいない。パソコンもなければプリンターもない」と不満を口にした。与党「共に民主党」のパク・チャンデ代表職務代行兼院内代表も5日、国会で開かれた最高委員会議で「引き継ぎの職員も置かずに、パソコン、プリンター、筆記用具さえもない状態にして出て行ったのは犯罪行為だ」と前政権を批判した。
また、李氏は大統領府の移転が完了するまでの間、尹前大統領が過ごしたソウル市ハンナムドン（漢南洞）の官邸で過ごしている。大統領府は、漢南洞の官邸の一時使用を決めた理由について、引越しによる税金の浪費などを踏まえた措置だとしている。
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