韓国新政権、住宅価格抑制策を「懲罰的課税より供給拡大で安定へ」
韓国新政権、住宅価格抑制策を「懲罰的課税より供給拡大で安定へ」
韓国のイ・ジェミョン(李在明)次期大統領は、5月29日の選挙遊説で「住宅価格が上がれば供給を増やし、適切な価格を維持する」と述べた。第21代大統領選挙が終わり、新政権が発足する中で、李次期大統領は住宅供給の拡大を主要公約として掲げている。これは、過去の住宅価格高騰期に、課税など需要抑制中心の政策が「賢い一戸(資産価値の高い物件)」への集中を強め、住宅市場の二極化を拡大させたという反省に基づいている。さらに、中産層および低所得層向けの供給拡大も公約している。

 李氏は、「税金による住宅価格抑制」を否定し供給拡大すると公約している。李氏は選挙遊説中、ソウル瑞草区や江南区を訪れた際、「税金は他の制裁手段として使われると正当性を得にくい」と発言した。そして、「需要過多で住宅価格が上がれば、税金で需要を抑えて価格を管理するのではなく、供給を増やして適切な価格を維持する」と約束した。

 実際に共に民主党の政策公約集によると、李氏は、超高額マンション価格の抑制中心から、中産層・低所得層のための住宅供給を中心とした住宅政策に注力する計画を明らかにしている。住宅供給の対象は実需者に限定し、生涯初めて住宅を購入するなどの無住宅実需者には、きめ細かい金融支援も約束した。

 新婚夫婦や多子世帯向けの特別供給も拡大する方針だ。公共賃貸住宅の供給時には新婚夫婦に優先的に供給し、新婚夫婦期間の要件を10年まで拡大することで、特別供給の物件数も増やす。また、チョンセ(伝貰/入居者が家主に保証金を預けて賃貸借契約期間中は月々の賃料を支払わずに住むことができる制度)詐欺やウォルセ(月貰)価格の安定化を図るため、チョンセ保証金を住宅価格に対して一定水準以下に維持する賃貸人にはインセンティブを導入し、賃借人向けの保証制度も改善するとしている。

 具体的に供給拡大のためには、住宅供給迅速許認可制度の導入や都市紛争調整委員会の審査対象に工事費紛争調整を含めることなどが公約として挙げられた。住宅の許認可期間を短縮して事業費を削減し、工事費の透明性を確保することで、高額な分譲価格の問題を解消する狙いだ。

 再開発・再建築の手続きや容積率・建蔽率なども緩和すると表明した。ただし、これには公共性強化の原則の下で進めるという但し書きが付いている。これは、整備事業の規制を緩和するという意図と解釈できる一方で、ムン・ジェイン(文在寅)政権が公共主導で展開した都市再生や再開発事業を継続するという意味にも捉え得る部分だ。

 中・低所得層向けの公共賃貸住宅も供給を拡大する。公共賃貸の割合を段階的に拡大していく計画で、オーダーメイド型公共賃貸や負担可能住宅などを増やす。特に、チョクバンチョン(貧困層が住む狭い部屋が集まった地域)などの住居脆弱(ぜいじゃく)階層の解消に向けた対策を講じ、永久・国民賃貸住宅の住居環境を改善する内容が公約に含まれた。

 今回の政府が政策の方向性を供給に転換したのは、課税や融資規制を主体とした文政権の需要抑制政策が不動産価格高騰を招いたという判断が作用していると分析されている。

 具体的には、文政権はソウル江南の再建築市場に対するピンポイント規制をはじめ、チョンセ(伝貰)上限制と契約更新請求権を含む賃貸借2法、そして調整対象地域・投機地域・投機過熱地区の拡大指定などを実施した。新型コロナウイルス感染症や金利引き下げ局面と相まって住宅価格が高騰すると、複数住宅所有者に対する総合不動産税の強化まで行った。

 しかし、政府の意図とは異なり、融資総量規制や懲罰的な租税政策などは、結局ソウルを含む首都圏全域の住宅価格を押し上げる「風船効果」につながり、超高額住宅価格の天井が破られ、住宅価格の二極化という結果を招いた。

 当時、ある専門家は「(文政権の政策は)韓国の住宅市場の独特な仕組みである有機的な売買市場とチョンセ・ウォルセ市場の関係に対する理解不足、投機的行動に没頭した過度な規制などの問題点を抱えている」とし、「繰り返された規制政策の発表と、適切な供給拡大を生み出すことに失敗した結果だ」と分析している。

 また、李氏の供給中心のメッセージは、最近ソウル市がチャム・サム・テ・チョン(蚕室・三成・大峙・清潭)と呼ばれる江南圏地域を土地取引許可区域(土許区域)から解除した後に再指定するなど、政策が二転三転したことを意識した結果だとの分析も出ている。

 李氏は候補時代、オ・セフン(呉世勲)ソウル市長を念頭に置き、「突然土地許可を解除したり、突然再び縛って規制地域を拡大したりと政策を二転三転させて市場を不安にさせてはならない」と述べていた。そして、「今後は安定的な不動産政策で市場を尊重し、無理に抑えようとすればするほど値上がりするような異常な現象を引き起こさないようにする」と表明した。

 しかし、専門家らは李氏の単純な供給政策だけでは、最近深刻化している「賢い一戸」志向を緩和するには不十分だと指摘している。

 実際に尹前大統領は就任後、総合不動産税の緩和など前政権の複数住宅所有者や高額住宅対象の課税政策を改編する計画だったが、結局実行できなかった。後任政府が「富裕層減税」といった枠に囚われると、積極的な需要抑制緩和を進めるのは難しいだろうとの見通しが出ている。加えて、住宅担保融資金利が最近3%台に突入し、今月に入って韓国銀行が基準金利も引き下げたことで、住宅購入心理はいつでも回復しうる状況だ。7月からは3段階のストレスDSR(総債務元利金返済比率)が施行されるが、金利引き下げ基調により事実上融資規制効果が相殺されるだろうとの見通しも出ている。資産家が集中する江南など超高額マンションと、整備事業の好材料がある再建築・再開発団地は上昇傾向が続く可能性が高い。

 キム・ジンユ京畿大学都市交通工学科教授は、「江南・瑞草の価格が高騰していることに対し、供給を通じて適切な価格を維持するというのは、実現するのがかなり難しい課題だ」とし、「『賢い一戸』を緩和するためには適切な需要管理が不可避だろう」と見通した。

 ユン・ジヘ不動産R114リサーチラボ長も、「江南圏は融資・税金・分譲・整備事業など、いわゆる『パッケージ規制』が行われるため、供給が起きにくい」とし、「分譲価格上限制を解除すれば、また分譲価格が途方もなく高くなり、供給効果が弱まるため、バランスを取るのは容易ではないだろう」と分析した。
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