今回の大統領選はユン・ソギョル(尹錫悦)前大統領が罷免されたことを受けて行われる。尹氏が罷免されたのは、昨年12月に尹氏が「非常戒厳」を宣言したためだ。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。1987年の民主化以降初めてとなる非常戒厳の宣言を受け、当時、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いたが、「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。弾劾訴追案が可決したため、憲法裁判所が尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになり、憲法裁は先月、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。
尹氏が罷免されたことに伴い、大統領選が行われることになったが、国家を混乱に陥れた尹氏への反発は大きく、批判の矛先は尹氏が所属していた与党「国民の力」にも向けられて、同党公認のキム候補は苦しい選挙戦を強いられている。
有権者からは、政権交代を望む声も強く、最大野党「共に民主党」公認の李在明候補は各世論調査で、これまで大統領選候補の支持率トップを維持。ここまで優位に選挙戦を進めている。
李在明候補が支持率トップの状況は依然として変わらないものの、選挙戦終盤を迎え、李氏の「独走」とまでは言えない状況になってきた。世論調査会社の「韓国ギャラップ」が、20~22日にかけて、全国の18歳以上の有権者1002人を対象に実施した調査では、李候補の支持率は、前週行われた調査と比べると6ポイント下がって45%だった。一方、キム候補は7ポイント上がって36%、「改革新党」の李俊錫候補も2ポイント上がって10%だった。前回22ポイントあった李在明候補とキム候補の支持率の差は、今回の調査で9ポイントまで縮まったことになる。両候補の差が縮まった要因について、韓国ギャラップは「尹錫悦前大統領が与党を離党し、その後に開催された初の候補者討論会が分岐点になったとみられる」と分析した。「国民の力」はキム候補が選挙戦で苦戦を強いられる中、尹氏に離党を勧告する意向を示し、これを受け尹氏は17日、離党した。尹氏は当時、SNSで「自由な大韓民国を守る責任を果たすため、『国民の力』を離れる」と投稿した。尹氏の離党をきっかけに、昨年の「非常戒厳」に否定的な人が多い無党派層が一定数、キム候補の支持に転じたものとみられている。また、18日に主要候補者が参加して1回目のテレビ討論会が開かれたが、李在明候補は守勢が目立ち、これも李氏の支持率低下の一因になったとの見方も出ている。
前述の韓国ギャラップの調査結果で、キム候補と李俊錫候補の数字を単純に合算すると、李在明候補の支持率を上回る。「国民の力」のキム・ヨンテ非常対策委員長は23日、「李俊錫候補に、圧倒的な一本化を通じて、共に勝利の道に進むことを要請する」とし、李俊錫候補にキム候補との候補者一本化を呼び掛けた。
一方、李俊錫候補は既に一本化には応じない考えを示しており、22日、「国会議員選挙で投票してくれた国民の皆さんが私に期待していることは、揺るぎない政治姿勢を貫くことだ。その期待を裏切り、一本化することは全く考えていない」とした。その上で、報道陣に対し「一本化に関する質問はもうしないでもらいたい。意味がない」と語った。
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