尹氏が昨年12月に国内に向けて宣言した「非常戒厳」は、韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。
1987年の民主化以降初めてとなる非常戒厳の宣言を受け、当時、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
しかし、「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。同案の可決を受け、憲法裁判所が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになり、憲法裁は先月、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。
尹氏が失職したことに伴い、来月3日に大統領選が実施されることになり、今月12日から選挙運動が公式に始まった。韓国紙のハンギョレによると、同紙と韓国政党学会が世論調査専門機関STIに委託して、今月8~11日にかけて行った世論調査では、最大野党「共に民主党」李在明氏が49.3%で支持率トップ。与党「国民の力」のキム・ムンス氏が25.8%、「改革新党」のイ・ジュンソク氏が9.1%でこれに続いた。勝敗のカギを握る中道層では、李在明氏が51.8%、キム・ムンス氏が14.9%、イ・ジュンソク氏が12.7%となり、中道層にも李氏が深く浸透していることがうかがえる。
「国民の力」は尹氏が「非常戒厳」を宣言したことをきっかけに支持者離れが進んでおり、苦しい選挙戦となっている。キム候補は12日、尹氏による「非常戒厳」に関連し、「戒厳で国民は非常に困っていらっしゃる。輸出・外交関係など戒厳により苦痛を感じていらっしゃる国民に申し訳なく思う」と初めて公式に謝罪した。
「国民の力」内では、戒厳に批判的な一部保守層や中道層を取り込むため、尹氏の離党や除名を求める声が高まっている。クォン・ヨンテ党非常対策委員長は15日、「(尹前大統領と)できるだけ早い時期にお目にかかり、『国民の力』と大統領選挙の勝利のために決断してくれることを要請する」とし、離党を求める考えを示した。共同選挙対策委員会のイ・ジョンヒョン委員長もこの日、尹氏の自主的な離党を求めた。
こうした声に、尹氏自身はどう考えているのだろうか。韓国紙の中央日報が尹氏に近い人物の話として伝えたところによると、この人物は「尹前大統領は最近、キム候補との電話で、選挙に役立つのなら、『私をいくら踏んで行ってもらっても構わない』との考えを伝えたと聞いている」と明かした。ただ、尹氏は、自身の離党が選挙にプラスになるのか、このまま党に所属し続ける方がいいのかの判断はキム候補が判断すべきとの考えを示したという。一方、ハンギョレによると、キム候補は尹氏の側近に対し、「尹前大統領には離党しないでもらいたい」と伝えたという。
野党候補に大きくリードを許す中、尹氏をめぐる党の判断、尹氏の今後の対応が注目される。
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