韓国政府の今回の「インド太平洋戦略」は、その用語からして「対中けん制の性格を帯びた米中のインド太平洋戦略に、同盟国として寄与する」という意志が内包されている。それでも韓国政府は「特定国を排除するためのものではない」と強調した。米中競争における韓国の代表的なジレンマが表れた指針である。結局、韓国政府のインド太平洋戦略における成功のカギは「中国との関係」にかかっている。
韓国政府は今回のインド太平洋戦略を「ユン・ソギョル(尹錫悦)政府の外交政策ドクトリン」と名付けた。パク・チン(朴振)外相は28日午後、駐韓外交大使などを対象にした説明会で「今回のインド太平洋戦略の発表を通して、韓国は戦略的な地平を朝鮮半島を越えて設定することになった」とし「朝鮮半島の恒久的平和と安定をもたらすため努力しながら、これと並行して友邦国と共同の挑戦課題に対応するため協力していく」と伝えた。
ムン・ジェイン(文在寅)前政府は、“軍事膨張戦略”を防ぐための意図が込められた「インド太平洋戦略」という用語を使わず「新南方政策」と名付け「中国けん制の意図はない」という点をより明確にすることでバランス外交を示していった。
一方尹政府のインド太平洋戦略は、朝鮮半島・北東アジア・東南アジア・南アジア・オセアニア・インド洋沿岸アフリカまでの地域を設定した外交戦略を明示した。さらにヨーロッパや中南米との協力の方向も明らかにし、ロシアと中東国家を除いた全世界への外交方向が盛り込まれている。
また、経済を越え自由・民主主義・人権・法治主義の価値を基に、伝統的な安保から新興安保に至る戦略的概念を盛り込んだ。
このように韓国政府の「対外戦略基調全体」を設定したという点で、“対ASEAN政策”の性格を帯びた「新南方政策」とは異なるものだといえる。
尹大統領はいち早く「インド太平洋」という用語を使用し、日米と歩調を合わせた。尹大統領は、ことし5月の米韓首脳会談で「独自のインド太平洋戦略を立てる」と明らかにした。また11月の東アジアサミット(EAS)を機に開かれた日米韓首脳会談の共同声明では「自由で開放され包容的かつ回復力のある安全なインド太平洋地域のため、われわれの共同努力を調整していく」と明らかにした。
これは「『日米のインド太平洋戦略と共に寄与する』という意志が、韓国版インド太平洋戦略の基本認識だ」ということを意味する。これに対し米国は直ちに「韓国が、域内の安保と繁栄に対するわれわれ共同の約束を反映したものとして新たなインド太平洋戦略を採択したことを歓迎する」と伝えた。
一方、中国を「これまでなかった最大の戦略的挑戦」と規定した日本の安保戦略と比べると「インド太平洋地域の繁栄と平和を達成するにおいて主要な協力国家だ」という韓国政府の対中認識は、日米とは大きな差がある。このことについて韓国大統領府の高位関係者は「中国との協力をわれわれが拒否するのは、現実とかなり距離がある話だ」と語った。
しかし「中国」を示す用語は、ところどころに盛り込まれている。「規範と規則に基づいたインド太平洋地域の秩序構築」という最初の重点課題がその代表的なものだ。また「南シナ海の平和と安定」「航行および上空飛行の自由」「台湾海峡の平和と安定」などもそうである。
日米のインド太平洋戦略に寄与しながらも「中国は協力国だ」と規定したのは、尹政府のインド太平洋戦略における「ジレンマ」である。言い換えれば「中韓関係が、インド太平洋戦略の成功を決定する」ということだとも言える。
中国は、韓国版インド太平洋戦略について「各国が団結・協力し、地域の平和・安定・発展および繁栄を促進するため共に努力して排他的な小グループに反対することが、地域国家の共同利益に合っている」として、反対の立場を明らかにしている。
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