<W解説>韓国で首都圏中心に記録的な大雨=ソウル市の水害対策事業は遅延、今年の水防・治水予算は減額(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国で首都圏中心に記録的な大雨=ソウル市の水害対策事業は遅延、今年の水防・治水予算は減額(画像提供:wowkorea)
韓国は、8日からソウルなど首都圏を中心に大雨が降り、これまでに9人が死亡、7人が行方不明になっている。韓国メディアによると、ソウルでは80年ぶりの記録的大雨になったという。

 停滞する前線の影響で大雨となり、ソウル市トンジャク(銅雀)区では8日夜、1時間に141.5ミリの猛烈な雨を観測した。これまで最高だった1842年8月に観測された1時間に118.6ミリの降雨量を80年ぶりに上回った。また、1時間あたりの雨量が136ミリを超えた地域もあり、韓国メディアは「115年の観測史上、最大規模の記録的大雨」と伝えている。各地で浸水被害が発生し、鉄道も一部は運休するなど交通機関にも影響が出た。

 ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は9日午前、緊急対策会議を開き、人的被害の拡大を防ぐとともに、復旧作業を急ぐなど対応に万全を期すよう指示した。

 ソウルの半地下の住宅では、浸水で閉じ込められた3人が死亡した。韓国の半地下住宅は、2019年公開の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」でも描かれた。尹大統領は現場を訪れ、社会的弱者であるほど、災害時に最も脆弱(ぜいじゃく)となる現実を指摘。「彼らが安全であってこそ、初めて大韓民国が安全になる」と述べた。

 豪雨により尹大統領の自宅があるソウル市ソチョ(瑞草)区も浸水。尹氏は自宅で対応を指示した。しかし、野党「共に民主党」は「大統領が事実上、被災者になってしまった状況を国民はどのように受け止めたらよいのか」とし、「災害が発生した状況で大統領が家に閉じ込められて何もできない姿を見て国民は茫然自失する」と批判した。

 これに、大統領室は反論し「大統領が自宅で孤立したという主張も、家に閉じ込められて何もできなかったという主張も根拠のない誤り」とし、9日の明け方まで被害状況などの報告を受けながら、迅速に指示を出していたと強調した。大統領室のカン・インソン報道官は「災害による危機の克服は政争ではなく、超党派的な対策を準備することで可能となる。国民の苦痛を政争の手段とする行為をやめることを願う」と呼び掛けた。

 また、大統領室関係者は、8日夜の時点で尹氏の自宅周辺で浸水被害はあったが、現場に向かうことができないわけではなかったとした上で「被害が発生している状況で、警備をつけながら現場に向かうことは適切ではないと判断した」と説明。「今後も同じ状況になれば、同様の判断をするだろう」とした。もっとも、大統領自らが陣頭指揮を差し置いて現場に向かえば混乱をきたすことは明らかで、この判断は適切だったと言える。

 この豪雨で、首都圏を中心に甚大な被害が起きている中、韓国紙の朝鮮日報は「ソウル市は2015年から総額1兆4000億ウォン(現レートで約1400億円)の予算を投じて下水管の容量拡大などの浸水対策を推進してきたが、今回の集中豪雨にはほとんど効果が出なかった」と指摘した。

 ソウル市内の中でもハンガン(漢江)の南側に位置するカンナム(江南)一帯は地形がすり鉢状に低くなっており、ソウル市は対策事業を進めてきた。朝鮮日報によると、この事業が完了すれば降水量が1時間に95ミリの豪雨にも対応できるとされてきたが、2019年完工予定が遅れ、現在までに終了していない。もっとも、今回の豪雨でソウルは1時間の雨量が140ミリを記録していることから、工事が完了していたとしても十分に処理しきれなかったとみられる。想定を上回る雨量となったわけだが、「1時間に95ミリ」という想定そのものが低く、これでは近年頻発するゲリラ豪雨には対応しきれないとの指摘も出ている。

 また、ソウル市の今年の水防・治水予算が昨年よりも900億ウォンほど減額されたことが明らかになった。韓国メディアの報道によると、今年の水防・治水予算は4202億ウォンで、昨年の5099億ウォンより897億円減った。昨年の市議会で絶対多数を占めていた「共に民主党」の発議により減額が決まったという。近年、豪雨災害が毎年のように発生している中、なぜ予算削減を主張したのか、「共に民主党」には説明が求められる。

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