【個別インタビュー】パク・チャヌク監督、「BTS(防弾少年団)」RMやK-POPアーティストなど、若い世代がこの映画を理解し、好きだと言ってくれることはありがたいこと」
【個別インタビュー】パク・チャヌク監督、「BTS(防弾少年団)」RMやK-POPアーティストなど、若い世代がこの映画を理解し、好きだと言ってくれることはありがたいこと」
映画「オールド・ボーイ」や「渇き」、「お嬢さん」など、刺激的な素材で世界中の観客と批評家を唸らせ続けてきた鬼才パク・チャヌク監督の新作「別れる決心」が2月17日(金)より日本全国で公開する。長編映画としては約6年ぶりとなる本作は、山での転落事故をきっかけに刑事と容疑者として出会った2人が疑いを抱きつつ惹かれ合っていくサスペンスロマンス。映画公開に先駆けて行われたパク・チャヌク監督のインタビューでは、演出の構想や撮影秘話、印象的なシーンなどについて語ってくれた。

韓国映画「別れる決心」のキャスト、公開日、あらすじ

本作のはじまりは、英国BBCで放送された初のテレビ・シリーズ「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」の撮影でロンドンに滞在していたパク・チャヌク監督と、これまで多くの作品を共にしてきた脚本家のチョン・ソギョンとの会話からだった。作品を作る上でパク・チャヌクの頭の中には二つの素材があり、一つは彼が若い頃から大好きだったというイ・ボンジョ作曲の韓国歌謡「霧」。彼は歌詞にあるような霧の街を舞台にしたロマンス映画を作りたいと思ったそうだ。そして二つ目は彼が好きなスウェーデンの推理小説、警察官のマルティン・ベック・シリーズのような、彼好みの性格の刑事キャラクターが登場する映画を作りたいということだった。その二つの構想がチョン・ソギョンとの会話の中で一つに融合し形になっていったそうだ。

劇中の主人公ヘジュン(パク・へイル)は穏やかで清康な男だが、事件の被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)との出会いをきっかけに先の見えない霧の中を進むような日々を送ることになる。本作ではあえて強烈な展開や描写を選ばず、見るものの心を静かに浸食していくような展開にしようと思ったという。
「チョン・ソギョン作家とは今回の映画は、露出や情事の場面、暴力的なシーンなどはできるだけ排除しようと話していました。そして、繊細で微妙で優雅で深みのある少し隠しているような感覚の映画にしたいと思いました。ただ、繊細で微妙で優雅であっても、観客にちゃんと感じてもらえなければ意味がないので、抑えながらも感じてもらえるようなものにしたいと思いました。そのためにも、それ以外の刺激的な表現は避けようということになりました。だからこそ俳優の目の動きや揺らぎ、小さな表情に加えて、編集やカメラワークなどの技法で補って表現しようと思いました。ですから『愛している』という言葉を言わなくても表現できるような映画を作ってみようと思いました」。

キャスティングについては「主人公のタン・ウェイさんとパク・へイルさんにこの映画はこういうものだということを言葉で説明しました」と、脚本を書く前にオファーをしたという。
「脚本が出来上がってから俳優さんに出演OKをもらいたくなかったからです。まずは2人に演じてもらいたかったので、会ったときに『まだ脚本はないけど、こういう映画になります』ということを口頭で長い時間をかけて説明しました。それでキャスティングもOKになり、いざ作品が出来上がったら、『監督が初めて会った時に話したことがそのまま映画になりましたね』と2人から言われました。ですからその段階においてこの映画はある程度出来上がっていましたし、それは最初の口頭での説明で伝わったのだと思いました」。

主人公2人から出演OKの返事をもらってから脚本を書いて完成させたパク・チャヌク監督とチョン・ソギョン作家は、俳優との討論を重ねてお互いに納得してから撮影に入ったという。
「脚本を完成させてから俳優とたくさん討論をすることはあります。例えばこの場面でどうしてこうなるのか、感情が理解できないと言われたら、私はどうしてこうなるのかということを説明します。それで納得できればいいのですが、納得できない場合はせりふをはずしたり変えたりすることはあります。ただし、それは現場に入る前のことで、その時点で徹底的に話し合うので、現場で撮影しながら変わったせりふはほぼありませんでした。それは本作に限らずです。作品はチョン・ソギョン作家と一緒に作っていくので、単語一つ一つを一緒に決めていきます。2人の考えが半分ずつ入っていて、2人の考えが一つになって脚本に表れています。ですので、どこが誰の提案なのか区別ができないくらいなのですが、例えばストーリー全体で最初は山から始まり海で終わるというのは彼女の提案でした」。

「大人なら誰でも共感できる複雑な感情を描きたかった」と監督が語る通り、本作では観客を驚かせる刺激的なシーンはほぼ登場しない。よく見えない霧の中、目をこらして進んでいく物語を表現するために「目を強調した」と話した。
「もともと『霧』という歌があり、そこからインスピレーションを受けてこのストーリーを作り始めたのですが、霧の中というのはすべてのものがぼやけて見えますよね。それをなんとかはっきり見ようとする人のイメージからスタートしています。霧という歌のなかの歌詞にも『霧の中でしっかり目を開けて』というフレーズがあります。すべての始まりがそこだったので、劇中でヘジュンが目薬をしきりにさすというところも、前をしっかり見るという意思という表現で入れました」。

劇中、感情を表に出さないヘジュンと自分の意思をはっきり伝えるソレの関係性を表現するためのアイテムについても語った。
「ソレが頭にヘッドライトを付けてヘジュンを照らすシーンがありますが、向かい合うと夜であってもどうしてもヘジュンは煌々と照らされてしまい表情を隠せなくなります。強いライトで照らされたヘジュンというのは、気持ちも何もかもあからさまになってしまいます。普段は自分の感情を表現したくない、感情を隠したい気弱なところがあるのですが、ソレという強い光を放つ女性の前ではそれすらも叶わない。すべてが丸裸になってしまう、すべてを隠せなくなる、そういった2人の関係性を表現したかったんです」。

主人公の些細な動作やせりふの間の空け方にもこだわり、複雑な感情を表現していった。監督にとって印象に残っているシーンについて聞いてみると、「ヘジュンの場合は、劇中の最初のほうのシーンで、死体安置室にソレがやってきて、そこで初めて対面します。その時にヘジュンをクローズアップで撮っているのですが、女性をしばらくの間じーっと見てから、『暗証コードを教えてください』と一言言うシーンがあります。撮影前にパク・へイルさんに、『ここは女性を長めに見てからセリフを言ってほしい』とは言ったのですが、いざ撮影してみたらあまりにも長い間じーっと見つめたままだったので、せりふを忘れたんだなって思ったんです(笑)。長くもない短いセリフなので、それも忘れたのか、情けないやつだなど内心思っていたのですが、それは彼自身が計算して演技していたことだったので驚きました。それからソレの場合は、映画を大きくパート1と2で分けたとすると、パート2の警察署による取調室でのシーンです。私はこの映画の中でもここが一番素晴らしいと思っています。ヘジュンの質問に答えるときに、自分自身のことを『すごく可哀想な女ね』というせりふがあるのですが、その時の彼女の表情がとても悲しくもあり愛らしくもある素晴らしい演技だったと思います」。

監督が語る通り、ソレのその韓国語のせりふは映画が見終わっても頭の中に残るほど印象的なせりふだった。外国なまりの韓国語ではあったが、その表情とせりふは深みがあった。韓国語がある程度わかった上で、わざと外国語なまりの韓国語の発音にしているのかとも思うような演技を見せてくれたが、タン・ウェイは韓国語がまったくわからない状態から始まったそうだ。
「外国語で演技をするとなると、せりふを音として完全に覚えてそれを発して演技をすることが多いのですが、タン・ウェイさんはこだわりが強く、私はそんな風にはできないと言って、実際に文法から韓国語の基礎から学んでいました。ですので、この単語はどんな意味なのか、このシーンではどうしてこの単語ではなくこっちの単語を使うのかということまで納得したいタイプの方でした。また、相手のせりふも理解して覚えて演技に臨むような方でした。ですので、きっと嫌になってしまうほど時間もかかるし大変な作業だったと思いますが、それをして臨んでくれました。彼女が発する韓国語は完璧に発音することができずにつたない部分があるので、誰が聞いても外国の方が言っているとわかるのですが、文法的に言えば完璧にできていました。劇中、彼女は時代劇を見て韓国語を覚えているので、普通の韓国人よりもむしろ優雅で品のある言葉づかいをしています。実際は文法の勉強から始まったのですが、先生を2人つけました。一人は文法をきちんと教える先生、もう一人は演技もできる先生でした。それから、演劇俳優である女性にすべて演技指導した上で劇中のソレが発するせりふを録音してタン・ウェイさんに渡しました。あとはタン・ウェイさんがどうして必要としたかわからないのですが、監督が言ったせりふもほしいということで、私は男ではありますがタン・ウェイさんが言うべきせりふをすべて録音して渡しました(笑)。相手役の方のせりふもほしいということで、パク・へイルさんが演じたヘジュンのせりふもすべて録音したものを渡して、彼女はずっとそれを聞きながら練習していました」。

パク・チャヌク監督イコール、“復讐”、“暴力”、“残酷”な素材の映画を作る監督として知られているが、本作ではそういった素材を封印して“愛”をテーマにした作品になっていることでも話題となっていた。監督は「今まで作ってきた作品のほとんどの作品はすべていろんな形での愛情が盛り込まれています」と語る。
「私が本作を作ったあとに皆さんとお話しをするとき、今までもそうであったように今回もまた新しい愛の映画を作りましたと言ったら、みなさん笑ったんです。でもそれは皆さんを笑わせようと思って冗談でお話ししたわけでは決してありませんでした。『オールド・ボーイ』は復讐劇の代表作と言われる作品ですが、その作品も愛情を描いていますし、それ以外の『渇き』や『リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ』もそうですし、今まで作ってきた作品はすべていろんな形での愛情が盛り込まれています。実際そういう話をすると、なんでみんなが笑うのかと数年前から考えていました。考えてみると、その理由は暴力やエロティシズムという肉体的な表現が強くて、内面的な愛やロマンスといった感情的な部分を観客は忘れてしまうのだと思いました。なので、今回の作品ではみんなが『愛の映画を作った』と言ったら笑われることはないように、暴力やセクシャルな表現は抑えました。今回『別れる決心』という映画を作ったので、また『オールド・ボーイ』のような作品を作ったとしても、また新しい形の愛の映画を作ったのだと思ってもらえるようにしたいです。そう言ってもらえるのか楽しみにしています」。

本作は「霧」という歌謡曲から生まれた作品。映画の中の音楽についてもこだわっていた彼は、登山のシーンでマーラーの交響曲第4番と第5番が使われている。クラシック愛好家としても知られている監督に最近聴いている曲についても聞いてみた。
「クラシックやジャズをよく聴くのですが、ショスタコーヴィチの交響曲が好きです。いつも聴いているのはベートーヴェンの弦楽四重奏をよく聴いています。それから、ジャズは昔の曲を…。ハード・バップ時代(1950年-1960年)の曲もよく聴きます。K-POPはよくわかりませんが、娘が『LE SSERAFIM』というガールズグループがすごいと言っていたので、一緒にミュージックビデオを見たりしています(笑)」。

そんな風に優しい笑顔で話してくれた監督。本作は監督の娘さんが好きな「LE SSERAFIM」の先輩にあたる「BTS(防弾少年団)」のRMも何度も鑑賞したことで話題になっていた。また、本作をモチーフに「2022 MAMA AWARDS」でヒョリンとBIBIがコラボステージを披露し、K-POP歌手の間でも注目されている。

映画とはまた異なる表現で若者に監督の作品が伝わることについて監督は「RMも何度も見たと言ってくれていましたし、若い世代の方がこの映画を理解して好きになってくれるのは私にとってはとてもありがたいことです。この映画は古典的なスタイルの映画なので、最近の映画に比べたら刺激も少ないですし、ストーリーの展開もゆっくりで感情を正直に表現しないもどかしい人々の話なので、若者が見た時に退屈だと思ったらどうしようかと心配に思っていました。でも、K-POPアーティストや若い世代の方々が私の映画を好きだと言ってくれてとても感謝しています」と伝えた。


『別れる決心』
引かれ合う刑事と容疑者は、1つ目の殺人で別れ、2つ目の殺人で再会する。
アカデミー賞とカンヌ国際映画祭を魅了した今年最高のサスペンスロマンス。
2023年2月17日(金) 全国ロードショー


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