<W解説>韓国で話題の映画2作品が日韓関係改善の妨げとなり得る懸念(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国で話題の映画2作品が日韓関係改善の妨げとなり得る懸念(画像提供:wowkorea)
韓国で公開中の映画「英雄」と、今年中に公開予定の映画「ハルビン」の2作品は、今後、日韓関係改善を図る上で障壁となるのか。2作品とも初代韓国統監で、日本の初代内閣総理大臣である伊藤博文を暗殺した韓国の独立運動家、アン・ジュングン(安重根、1879~1910年)を題材にしている。安重根は日本ではテロリスト、韓国では「民族の英雄」とされ日韓で評価が分かれる人物。昨年12月に公開された「英雄」は公開初日に10万5000人の観客を集めるヒット作品となっている。今年中に公開される「ハルビン」は安重根役を日本でも人気の俳優ヒョンビンが務めることになっており、早くも注目が集まっている。しかし、日韓最大の懸案である元徴用工問題の解決を目指し、現在、日韓当局の動きが活発になっており、両国で関係改善を図ろうとする雰囲気も醸成されつつある中、この2作品は日韓双方で互いの国への反感意識を刺激する可能性もあり、関係改善への動きに障壁とならないか懸念される。

韓国映画「英雄」のキャスト、公開日、あらすじ

安重根は1879年、現在のファンヘド(黄海道、現在の北朝鮮)に生まれた。1905年に日本が大韓帝国の外交権を奪う乙巳条約(第2次日韓協約)が締結されると、私財を投じて二つの学校を設立して民族啓蒙運動に力を注ぐようになり、日本の占領が本格化すると義兵運動に身を投じた。1909年10月26日に初代韓国統監の伊藤博文を中国・黒竜江省のハルビンの駅で暗殺して死刑判決を受け、1910年3月26日に中国の旅順で殉国した。暗殺に関しては安重根の単独説のほか、併合強硬派による謀殺だったという説、遺体から見つかった弾丸がフランス騎馬隊カービン銃(歩兵用小銃より銃身が短い騎兵用小銃)用であったことから、フランス関係者の犯行との説もあり、真相は現在も謎に包まれている。

安重根について韓国では「民族運動の義士」「英雄」とされており、韓国政府は功績をたたえ、1962年に建国勲章大韓民国章を授与している。ソウル市内には安重根を追悼する安重根義士記念館がある。

2017年には韓国北部、ウィジョンプ(議政府)市の駅前の公園に安重根の銅像が設置された。銅像は安重根が懐から拳銃を取り出す伊藤暗殺の直前の瞬間が再現されている。

昨年10月には安重根が伊藤を暗殺してから113年となるのに合わせ、ソウルの安重根義士記念館で記念式典が開かれた。式典は社団法人安重根義士崇慕会が主管。愛国者や退役軍人に関する政策を実施する国家報勲処のパク・ミンシク処長、崇慕会理事長のキム・ファンシク元首相、独立功労者の遺族や崇慕会の会員ら約300人が出席した。

昨年12月21日に韓国で公開された映画「英雄」は、死刑判決を受けて死を迎えるまでの安重根の1年を描いた作品で、2009年に初演されたミュージカル「英雄」が原作となっている。韓国で名匠として知られるユン・ジェギュン監督の新作で、ロケは日本でも行われたという。ミュージカルで安重根を演じたチョン・ソンファが映画版でも主演を務めている。公開初日には10万5472人の観客を集めた。

日本のニュースサイト、NEWSポストセブンの記事によると、韓国では小説「ハルビン」がベストセラーになるなど、昨年から「安重根ブーム」が起きているという。また、今年中には映画「ハルビン」が公開予定。「ハルビン」は、1909年の中国・ハルビンを舞台に、奪われた祖国を取り戻すために命を懸けた独立闘志たちの物語を描いた作品。安重根役は、大ヒットした韓国ドラマ「愛の不時着」で、日本でもその名が知られるようになった俳優のヒョンビンだ。

韓国で改めて安重根にスポットライトが当たる中、「英雄」を見たというハニャン(漢陽)女子大学の平井敏晴助教授は、NEWSポストセブンの取材に「映画の影響力を考えると、伊藤を悪の権化にした映画のイメージは韓国人に広がりやすい」とし、「韓国社会の根底にある反日感情を刺激するような映画がヒットしていることは、日本だけでなく対日関係の回復を急ぐ尹錫悦政権にとっても新たな障壁でしょう」と指摘した。

また、「ハルビン」の安重根役を日本人ファンも多くいるヒョンビンが演じることにも、ファンらからは不安や動揺が広がっており、ヒョンビンの同作への出演が発表された際、ネット上では「複雑」「よりによってなぜ?」などといったコメントが寄せられた。昨年11月から撮影が始まっており、ヒョンビンは撮影にあたり「この作品に参加することを決めてから、1人で安重根義士記念館に行ってきた。胸の中に深い重さと震えを覚えた。立派な俳優の方々、スタッフの方々と共に最善を尽くしたい」と語っている。

日韓関係を修復しようとする雰囲気が醸成されつつある今、なぜ、抗日的映画なのかという気もする。

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