韓国では「強制徴用」の象徴とされる長崎県の世界遺産「端島(軍艦島)」(画像提供:wowkorea)
韓国では「強制徴用」の象徴とされる長崎県の世界遺産「端島(軍艦島)」(画像提供:wowkorea)
韓国のソウル中央地裁が原告の訴えを却下した元徴用工訴訟。判決が、1965年の日韓請求権協定で補償問題は解決済みとする日本企業側の主張に沿う内容だったとして、韓国内では反発が広がっている。

その矛先は、この裁判を担当したキム・ヤンホ裁判長に向けられている。韓国には大統領府「青瓦台」のホームページで、国民からの要望を受け付ける「国民請願」という制度がある。韓国メディアによると、8日、「反国家、反民族的判決を下したキム・ヤンホ裁判官の弾劾を要求します」との請願が上がった。

請願の発起人は請願掲示板で「ソウル地裁所属のキム・ヤンホ部長判事(裁判長)が非常に衝撃的な判決を下した」と指摘。「却下の判決を下した理由を詳しく見ると、果たしてこの者が本当に韓国の国民なのか疑問を感じるほど、反国家的、反歴史的な内容がつづられている」と批判した。その上で、「国憲を順守し、司法府の正義を正しく立て、民族的良心を回復するためにも、キム・ヤンホ判事を直ちに弾劾しなければならない」とし、請願への同意を求めた。

請願制度では、登録された1件の請願に対し、30日以内に20万人以上の同意が得られた場合は、政府や大統領府関係者が何らかの回答することになっている。キム裁判長の弾劾を求める請願は現在、同意者が26万人を超えたため、今後、政府や大統領府関係者が回答をするとみられる。

7日の判決でソウル地裁は、「韓国国民が日本や日本国民に対して持つ個人請求権は韓日(日韓)請求権協定によって消滅、放棄されたとは言えないが、訴訟で行使することは制限される」と判断。戦時中に過酷な労働を強いられたとして、新日鉄住金(現、日本製鉄)や三菱重工業など日本企業16社に対し、損害賠償を求めていた元徴用工やその遺族85人の原告の訴えを却下した。

判決後、ネット上などでは判決内容を批判するコメントが相次ぎ、現在、その矛先は裁判長を務めたキム判事に向けられる事態となっている。弾劾請願にとどまらず、オンライン掲示板「クリアン」では一時、キム裁判長の弾劾を促すハッシュタグ運動「#キム・ヤンホ弾劾」も起きた。

しかし、こうした動きには懸念を示す声も出ている。8日、「#キム・ヤンホ弾劾」について報じた中央日報の記事でコリョ(高麗)大学法科大学院のチャン・ヨンス教授は「判事個人に明らかな不正があるわけではないにも関わらず、希望通りでない判決が下されたという理由で弾劾を要求するのは、世論裁判をするよう求めることと同じ」とし、「判決が気に入らないという理由で裁判官を非難すればするほど、司法の独立性と裁判の公正性が危うくなる」と指摘した。

司法の独立性と裁判の公正性。今こそ冷静になってこの重みを認識すべきだ。裁判官個人に批判の目を向けることは法曹界の委縮につながり、絶対に避けなければいけない。こうした個人攻撃により裁判官が世論に流されて判決が下されるようなことが起きれば、司法そのものが崩壊し、韓国は朝鮮戦争の当時、ソウルを占領した北朝鮮軍の「人民裁判」のような野蛮の時代に戻る。

徴用工・募集工の裁判に関しては、まったく違う判決を下した2人の「キム判事」が有名だ。2012年のキム・ヌンファン判事と、今回2021年のキム・ヤンホ判事だ。

2012年、大法院(日本の最高裁判所に該当)のキム・ヌンファン判事は、「新日本製鐵(現、日本製鉄)と三菱中工業が強制徴用被害者9名に損害賠償をする義務がある」と判決した。その後、彼は「建国する心境で判決文を書いた」と明かした。確かにこの判決から日韓関係は、建国後の最悪の状態となった。

キム・ヌンファン判事は、2013年の引退後、「前官礼遇」で高収入が保証されるローファーム(大型法律事務所)入社を拒んだ。その代わりにコンビニで働き、韓国民に「なるほど」と称賛された。しかし、6か月後、彼は結局、超有名ローファームの顧問弁護士になった。「なるほど」だった。

2021年のキム・ヤンホ判事は、「日韓協定で得た外貨が、“ハンガン(漢江)の奇跡”に寄与した」や「国際社会が、日本による植民地支配を不法だとみていない」や「日韓関係が悪化すれば、米国との関係も悪くなる」などと判決した。当然、韓国では叩かれる発言である。このキム・ヤンホ判事は、どのような人物なのか?

1970年生まれで現在51歳。ソウル育ちで「韓国の東大」と言われるソウル大学の法学部に入学した。私法学科を卒業した後、同大学院を卒業した。1995年には司法試験に合格、司法研修院(日本の司法研修所や司法修習に相当)を修了、2001年から判事の仕事を始めた。

ドイツのベルリン自由大学に訪問学者として留学し、「独逸民事訴訟の下級審強化と口述主義の運営」との論文を発表した学者判事でもある。

韓国各地の地方裁判所や司法研修院の教授を経て昨年からソウル中央地方裁判所の部長判事になった。キム・ヤンホ判事が法廷で被告人に懲役1年を宣告した瞬間、被告が判事に悪口を叩いたことがあった。キム・ヤンホ判事は何とその場で判決を修正し、懲役3年を宣告した逸話がある。

法廷外で判決に悪口を叩く26万人にキム判事がどのように対処するのか。そして、日本から「反日無罪、親日有罪」と揶揄される韓国の雰囲気で、実はキム判事を応援している韓国民は何人なのか、気になるところだ。

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