【ソウル聯合ニュース】北朝鮮の故金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者、金正恩(キム・ジョンウン)氏が人民軍最高司令官に就任してから30日で1か月となる。権力委譲が着々と進み現在まで権力の空白も生じていない模様だが、この状況がいつまで続くかは未知数というのが専門家らの観測だ。
◇遺訓打ち出し迅速な権力継承
 北朝鮮は金総書記が死去する前に残した遺訓を打ち出し、正恩氏を権力の前面に押し出した。
 朝鮮労働党機関紙の労働新聞は18日に掲載した記事で、「将軍様(金総書記)が昨年10月8日に金正恩同志の偉大さについて語り、金正恩副委員長を心から奉じなければならないと述べられた」と紹介した。
 遺訓の全体の内容は正確に把握できていないものの、正恩氏を中心に権力の運営を任せたものとみられる。
 遺訓に従い先月30日に軍最高司令官に任命された正恩氏は、1月1日には「近衛ソウル柳京洙(リュ・ギョンス)第105タンク(戦車)師団」を視察し、金総書記の先軍統治という政策路線に変化がないことを示唆した。
 また同日、党や政権、軍の高位幹部らと公演を観覧したほか、旧正月の23日には新年の宴会を開くなど指導部との関係を強化している。
 さらに、正恩氏は外交の表舞台に登場し活動を本格化している。北朝鮮の朝鮮中央放送は28日、金総書記へ弔電を送った国家の首脳らに対し正恩氏が答電を送ったと報じた。
◇住民に浸透する新指導者
 北朝鮮住民の間に正恩氏の存在感を植え付ける作業もピッチを上げている。
 正恩氏は2009年1月に後継者に内定し、2010年9月の党代表者会で後継者として公式に登場して1年あまりと認知度が低いためだ。
 2日には咸鏡南道を皮切りに平壌市など北朝鮮全域で決意集会が開かれるなど、住民らが正恩氏への忠誠を誓った。
 メディアを通じた偶像化も本格化している。正恩氏は16歳で軍事戦略に関する論文を書いた「思想理論の天才」とするのをはじめ、全知全能の指導者と称揚する宣伝も登場した。朝鮮中央テレビは正恩氏の誕生日の8日、正恩氏の過去の活動を盛り込んだ記録映画を放送し、2009年4月5日に金総書記とともに「光明星2号衛星(長距離ロケット)」の発射を視察した姿を放映した。
 また、正恩氏は最近、軍部隊や生産現場を視察し、軍や住民とのスキンシップにも力を入れている。軍人らと両腕を組んだり涙を流す軍人の手を握ったりする場面も数回目撃されており、専門家は祖父の故金日成(キム・イルソン)主席をならったものと分析する。
◇長期的には権力争いの可能性
 正恩氏を中心とした新指導体制では指導部が団結して安定を維持している。ただ、専門家は正恩氏の権力が強固になったときに新たな争いが生まれる可能性を指摘する。
 正恩氏が新体制を身内で固めた場合、正恩氏のおじ、張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の勢力や先軍政治の中核を担ってきた軍部との対立が生じる可能性が考えられる。
 特に正恩氏が自身の後見人を重用する上で障害となる指導部級の人物を粛清などで排除する過程で問題が生じるとの見方もあり、どれだけ安定的に他の勢力を取り込み協調できるかが政権の安定運営の鍵とみられる。
 ソウル大学統一平和研究院のチャン・ヨンソク選任研究員は、「中長期的にみれば正恩氏と権力エリート、権力エリート内部の相互関係が変化し、危機に見舞われる蓋然(がいぜん)性がある」と分析した。

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