映画「名もなき野良犬の輪舞」のビョン・ソンヒョン監督
映画「名もなき野良犬の輪舞」のビョン・ソンヒョン監督
「第70回カンヌ国際映画祭」特別招待作品として上映されたほか、世界各地の映画祭に招待され、各国のジャーナリストから大絶賛された「名もなき野良犬の輪舞」(5月5日公開)。

シワン(ZE:A) の最新ニュースまとめ

 80年代の香港映画やヨーロッパ映画のような古典的でスタイリッシュな映像と、名優ソル・ギョング、若手注目株イム・シワンの共演で話題となった本作は、既存の韓国ノワールとは一線を画すハードボイルド映画。誰かを信じたかった男、誰も信じられない男が出会い、兄弟のように固い絆で結ばれていたが、ある真実が露見したことで、哀しみと憎悪へと向かっていく姿を描く。

 自分以外の誰も信用することなく生きてきた犯罪組織のナンバー2、ジェホ役を演じたのはソル・ギョング。危険な魅力とカリスマ的な貫録に一抹の切なさを忍ばせて、無慈悲な闇の中で、一筋の光に心揺れる繊細さを表現した。そして、潜入捜査官という立場を越え、ジェホへの信頼にすべてを賭けるヒョンスに扮したのはイム・シワン。兵役前の最後の出演作であり、太陽のような情熱と美貌と勢いを役にぶつけて、鮮烈な印象を残している。

 メガホンを取ったのは、本作が長編3作目となるビョン・ソンヒョン監督。ロマンチック・コメディだった前作「マイPSパートナー」とは打って変わり、韓国ノワールを踏襲し、かつ男泣きハードボイルドとスタイリッシュなクライムアクションを融合させ、ハードボイルド映画の歴史に新たな1ページを刻む作品を誕生させた。
そんなビョン・ソンヒョン監督が日本公開を前に来日し、本作の見どころやソル・ギョング、イム・シワンの魅力について語った。


Q.本作は「新しいフィルムノワール」と言われ、ソル・ギョングさんは「スタイリッシュで磨き抜かれた映画」、イム・シワンさんは「面白く若々しくスタイリッシュな映画」と表現されていますが、どんな映画でしょうか?

「スタイリッシュなノワール」と言えると思います。その中に、ロマンスが隠れていて、男性2人のブロマンスを超えたコードを盛り込んでいます。そして、ドライでクールなエンディングにしました。

Q.そういうブロマンスを超えた関係ということで、ジェホがヒョンスを「チャギヤ(ハニー、ダーリンの意味で、恋人同士の呼び名)」と呼ぶ場面があるんですね。

ハイ。これまで韓国映画で、男性主人公2人のブロマンスを描いた作品は多かったんですが、それをもう少し発展させようと思い、この作品を作りました。ジェホが「チャギヤ」とふざけた感じで言うんですが、それ以外にも、2人の関係性を匂わせる要素が所々にあって、セクシュアルな表現ではないんですが、見る人が「あの2人の関係はいったい何?」って思うような面白さがあると思います。

Q.そして、ノワール物にしては主役2人の罵詈雑言が少なく、言葉遣いがキレイだと感じますが。

そうです。わざと汚い言葉はなくしました。いままでソル・ギョングさんは、マッチョなキャラクターなどが多かったんですが、今回はジェホを話し方も優しくて、スイートで紳士的な男性として表現しました。

Q.そんなジェホ役に、ソル・ギョングさんをキャスティングした理由を教えてください。

ソル・ギョングさんはいろいろな作品に出演しているんですが、典型的なお父さん、庶民的なおじさんという役が多くて、1回もカッコつけた役をやったことがないんです。そういうのをすごく恥ずかしがる方で。それで、今回は漫画に出てくるギャングスターのような、新しいイメージを引き出したいと思ったんです。もともと線が太い方なので、そういう部分を上手く引き出せば、カッコいい感じになるのではないかなと。ソル・ギョングさんとお酒の席で会ったとき、「1度カッコつけた役を演じてほしい」と話し、さらに「セクシーさも出してほしい」とお願いしました。最初は恥ずかしかったのか、嫌だと断られたんですが(笑)。オーダースーツを着るのも、今回が初めてだったそうです。

Q.たしかに、セクシーさが漂うソル・ギョングさんの姿は新鮮でしたが、演出的にこだわった部分などはあるんでしょうか?

まず、ソル・ギョングさん自身がしっかりトレーニングをしてくださり、顔もシャープになり、衣装は体にフィットしたタイトなスーツをオーダーしたので、腕と胸の運動を集中的にされたようです。あと、ヘアスタイルもオールバックにしてもらったんですが、オールバックは映画「力道山」以来だったそうです。言葉遣いも、先ほど言ったように、優しい言葉遣いにしたり、軽薄にも見えがちな甲高い笑い声をトレードマークにしました。それで、ジョーカーを連想させるようにし、彼が持つ狂気を重くせず、ふざけた感じに見えるよう表現しました。

Q.もう1人の主人公イム・シワンさんは好青年のイメージが強いですが、ヒョンス役にキャスティンしたのはどうしてでしょうか?

2人とも同じなんですが、それまでのイメージを覆したいというのがありました。あと、シワンさんの顔は、ただキレイ、カッコいいというのではなく、美しさがあるんです。それがエンディングのシーンにも合うと思いました。シワンさんは最初、ヒョンスというキャラクターをとても重く捉えていたんです。でも、ヒョンスの成長期でもあるので、序盤はシワンさんが持つ少年らしさを生かし、徐々に男になっていく姿を見せていこうという話をしました。例えば、序盤は彼のイメージそのままに、温かさや可愛らしさもあるんですが、母の死や、ジェホに自分は刑事だと告白するという段階を経て、冷たい部分を出していきます。その変化を見せたいと思いました。

Q.イム・シワンさんは、“演技のできるアイドル”ではなく、この作品で完全に役者になったと思うような素晴らしい演技を披露していますが、監督から見ると、イム・シワンさんの魅力はどういう部分でしょうか?

心から演技をする、計算をしないで演技をする、というところが魅力だと思います。話をするときもそうなんですが。感情表現において、周りを同化させていく力も持っていると思います。演技のキャリアからすると、まだ短いので、ほかにも演技の上手い人はいますが、シワンさんが笑うと周りもうれしくなるし、悲しそうにすると周りも悲しくなる、そんな妙な力を持っているのが、俳優として大きな強みではないかと思います。彼と同年代で、“演技のできるアイドル”と言われる人はたくさんいると思いますが、その言葉が色褪せるほど、同年代の中では演技力が群を抜いていて、これからもっと成長していくと思います。

Q.イム・シワンさんのシーンでは、鍛え上げられた肉体美を見せる場面も印象的でしたが、キャラクターの設定上、監督の方から体作りを指示されたんですか?

ハイ。実は、シワンさんはトレーニングをするのがあまり好きではなかったんですが、撮影前トレーニングとダイエットをしてもらいました。むくみがないよう、体から水分を出すということで、水もほとんど飲まなかったと思います。撮影が終わったら、すごい量の水を飲んでいました(笑)。だから、そのシーンは序盤に撮りました。

Q.「名もなき野良犬の輪舞」はノワール物ですが、映像が美しく、漫画チックな印象も受けます。特にこだわったシーンがあれば教えてください。

映画全般にわたって、こだわっているんですが、刑務所のセットもそうですね。韓国にはああいう刑務所がなくて、想像の中の刑務所を作ったんですが、美術もそうだし、漫画的な要素をたくさん盛り込んでいます。あと、チェ船長のところに押しかけていくアクションシーンは、リアルで壮絶なアクションではなく、主人公2人がクラブに遊びに行くような感覚で、楽しく遊んでいるように見せようと演出しました。

Q.女性の観客はどういう部分に注目すると、この作品をさらに楽しめるでしょうか?

主人公2人の感情にそって見ていただくと楽しめると思います。この作品はリピーターも多く、2回、3回と見たという方たちの話を聞くと、1回目はヒョンス目線で、2回目はジェホ目線で、3回目はビョンガプ(キム・ヒウォン)目線で見たそうです。韓国で、この映画のファンの集まりができたことを後になって知ったんですが、そのファンの90%以上が女性だと聞きました。面白いことに、ブラインド試写会をしたとき、いい点数をつけてくれたのは主に男性だったんです。ただ、この映画を何度も見て、広めてくれたのは女性たちだったんです。男性はこの作品をノワール映画だと紹介し、女性はロマンス映画だと紹介していたんです。ノワールの中に、ロマンス要素を隠したつもりだったんですが、女性たちはそこをちゃんとキャッチしていたので、そういう見方で見るのも面白いと思います。


 エモーショナルな激しさ、そしてユーモアとドライな視点が見る者をかく乱し、クライマックスに近づくほど予測不能に陥らせる「名もなき野良犬の輪舞」。同作のトークイベントで、「ハゲタカ」の原作で知られる小説家の真山仁が「最後まで騙されない人はいない。万華鏡のような映画」と絶賛していたが、1回だけでなく、2回、3回と見れば見るほど新たな気づきがあり、見方が変わる奥深い作品だ。


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