韓国がインターネット先進国になった本当の理由
韓国がインターネット先進国になった本当の理由
韓国は「インターネット先進国」と呼ばれる。世界で認められることに最大の価値を見いだす韓国にとって、インターネットは自尊心を最もくすぐってくれる最高の手段となっている。その韓国で、インターネットはどのように普及したのか。その経緯を振り返ってみよう。

■「86年」と「4年」の違い 

 そもそも韓国は朝鮮戦争で国土が荒廃したあと、自由や民主政治を犠牲にしてひたすら貧しさからの脱却に邁進した。ようやく「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を成し遂げ、1990年代半ばにはOECD(経済協力開発機構)の加盟国にもなった。それでもまだ韓国は世界から先進国の仲間入りを果たしたと見られなかった。

 それなのに、ことインターネットに関しては世界が韓国を見る目がまるで違った。恐るべき勢いで国内にブロードバンド(高速大容量)が普及したからだ。

 2002年10月には、ブロードバンドの加入者が1000万人を突破した。これは、割合でいうと10世帯中の7世帯以上が加入したことを意味し、その加入率は70%を超えた。

 韓国でブロードバンドのサービスが始まったのは1998年である。わずか4年で加入者が1000万人を超えた。凄まじい普及ぶりだ。

 ちなみに、朝鮮半島で有線電話のサービスが始まったのが1902年のことで、その回線が1000万を越えたのは1988年である。その間86年間もかかっている。それを考えると、ブロードバンドの普及ぶりは文字通り「超高速」となった。

■狙いはインターネット特需

 天然資源をもたない韓国が、貧困から抜け出し世界11位の経済規模を達成することができたのは、ひとえに商業貿易によって獲得した外貨で国内経済を活性化させてきたからである。

 ただし、北朝鮮とは未だ休戦状態にすぎないという不安定さが大きなネックとなり、北朝鮮との緊張が増す度に海外からの投資が冷え込むという構造的な弱点をもっていた。

 それを克服するためには、日本と中国にはさまれながらも技術立国としての存在感を示す必要があった。

 特に韓国が注目したのがインターネット特需であった。1980年代以降のアメリカがパソコンの発達によって膨大な雇用を確保できたという先例にならい、韓国も情報先端化に国の盛衰を託すようになった。

そうした情報先端化を加速させたのが、皮肉なことに1997年に起こった経済危機だった。国が破産状態に追い込まれたあと、韓国はさまざまな再生プランに積極的に関わったが、特にIT関連産業の育成を目玉にすえた。

 構造改革によって増加する一方の失業者を救済するには新しい需要を掘り起こすことが急務であり、そのためにもインターネットを普及させなければならない事情があった。

 1999年3月に金大中(キム・デジュン)政権は「サイバーコリア21(第2次情報化促進基本計画)を発表。単なる夢や希望を語るのではなく、具体的な数値を示して国土の隅々まで情報インフラの整備に最善を尽くすことを明らかにした。

 これが功を奏した。韓国は確実にインターネット先進国に突き進んだ。

■韓国中を騒がせた事件

 IT産業に詳しい関係者がこう語っている。

「韓国でインターネットが普及したのは金大中政権の情報化戦略のおかげですが、実はそれ以上にもっと重大な契機があったんです」

 それは、1998年から翌年にかけて韓国中を騒がせた「オ嬢事件」だった。

 人気タレントのオ嬢(韓国では実名も出てしまっている)のセックス映像が突如としてインターネット上に流れたのがことの始まりだ。元カレが交際中に意図的に撮影しておいたベッドシーンを別れた腹いせにオンラインに乗せたのである。

 先のIT関係者が語る。

「それはもう凄まじい勢いで、みんなブロードバンドに入りましたよ。しかも、男性だけではなく、あまりに社会を騒がす騒動になったので、どんなものか興味をもった女性もかなり接続を開始しました。加入の手続きが追いつかず、プロバイダーすら大混乱したほどの事件でした」

 儒教に基づく倫理観が根強く残る韓国では性表現の規制が厳しく、1998年当時にはテレビでキスシーンを流すことすら憚られたほどだ。

それなのに、インターネット上では表現に関する何の規制もなかった。

 その後も、「オ嬢事件」に似たことが起こった。その度ごとにブロードバンドの加入が激増した。「オ嬢事件」は、インターネットへの加入を促進させた第一波だったが、第二波となったのがオンラインゲームだ。

■なんでも功罪がある

 韓国では、インターネット上で楽しむオンラインゲームが非常に盛んで、小学生から大人まで夢中になった。没頭しすぎてマニアが心臓マヒで急死する事件まで起きて、あまりの加熱ぶりが社会問題になるほどだった。

 オンラインゲームならネット上で大勢の見知らぬ人と同じゲームを競い合うことができる。コンピュータを相手にするようなゲームだとある程度反応が予測できるが、生身の人間が相手なので壮絶な心理戦にもちこまれることが多い。

 そういう意味でオンラインゲームは、1人で何かをすることを嫌って大勢でワイワイ楽しむことが大好きな韓国人の性格にもよく合っていた。

 こうしたオンラインゲームの広がりの中で、PCバン(インターネットカフェ)を利用する人も圧倒的な数にのぼった。「PCバンのようなものがこれほどある国は世界でも韓国しかない」と大手通信社が世界に打電するほどの乱立ぶりだった。

 かくして韓国はインターネットが社会を動かす国になった。

 しかし、別な危惧が生まれている。インターネットによって、『数こそ社会正義』という論理がまかり通れば、多様な価値観を認め合う風潮は生まれてこない。

 むしろ自分と違う価値観を数の論理で圧倒するという集団ヒステリーが起こらないともかぎらないのだ。

 特に韓国社会は、地域対立・職業対立・学歴対立といったように、さまざまな対立軸によって成り立っている傾向が強いが、その中に今度はインターネットを活用できる世代とそうでない世代による情報対立が生まれてきた。

 なんでも功罪がある。インターネットも、しかりである。

文=康 熙奉(カン ヒボン)
ロコレ提供

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