ヤン・イクチュン監督=2日、ソウル(聯合ニュース)
ヤン・イクチュン監督=2日、ソウル(聯合ニュース)
韓国俳優ヤン・イクチュンは2年前のインタビューで、「自分を苦しめてくれる監督に出会いたい」と話していた。それを待つより、自分がそんな映画を撮ることにしたのか。映画監督に変身した彼は、自分をはじめ出演俳優を“苦しめる”映画を直接手がけた。俳優だけでなく観客まで苦しめかねないほど、見た目にも情緒の面でも強烈な自主制作映画『ブレスレス』がそれだ。

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家族という重荷に抑圧され、社会にもなじめない若者たちを描いた同作は、登場人物らを限界まで追い込む差し迫った状況をリアルに描き、見る者にまで「血を吐くような」感じを与える。

ソウル市内のカフェで2日に会ったヤン監督は“ブレスレス”というタイトルについて、共に暮らしているが自分のそばには来てほしくない存在、親しく付き合いたくない人という意味で付けたと紹介した。「わたしの中から引きずり出し、吐き出さなければならなかった話」だという。

自身が以前住んでいた町がそんな場所だった。窮地に追い込まれた状況がすでに日常化した人たちが住んでいた。「隣に住む40代の夫婦が大ゲンカをしていて、子どもたちが止めに入ると、お前にわたしの痛みがわかるのか?と叫んだんです。そんな状況では笑わせかねない言葉ですが、わたしにはその痛みが何かわかる気がしました」

映画の主人公、サンフンは便利屋に勤めながら罪悪感もなく暴力を振るうヤクザだ。彼は幼いころの家庭暴力により深い心の傷を抱えており、彼のそばにいる女子高生、ヨンヒもまた窮地に追い込まれるだけ追い込まれている人物だ。暴力の被害者が加害者になる状況、家族と世の中に向けた愛憎が裏には絡んでいるが、絶望的な現実から抜け出す方法を知らない人たちを描く。「当初の映画の意図は『暴力を振るう人はなぜそうするのか、本当にそうしたくてやっているのか』でした。サンフンは日常で使う言葉を習えず、本当は話をしたいがその代わりに暴力を振るい、暴言を吐くんです」

ヤン監督はこの映画を完成させるため、歯を食いしばって耐えねばならなかった。映画振興委員会などから受けた支援金に加え、両親、友人にまで金を借りたが、制作費に到底及ばず撮影が中断された。ヤン監督は家を引き払い保証金を制作費に充てねばならず、当然スタッフや俳優にはギャラも十分に渡せなかった。

撮影終盤には、30万ウォン(約2万2000円)さえあれば次の撮影が可能なのに、それもなかったほど。限界に達した時、スタッフらを帰宅させ3人が残った。スクリプターはスケジュールを組んで衣装まで準備し、一方のヤン監督は電話で金を借りた。美術監督はヤン監督に「逃げないだけですごい」と言ったという。「もともと単純で無知ですが情熱だけはあります。そこが自分の長所」とヤン監督は話す。

こうして制作された『ブレスレス』は、海外映画際で高く評価された。ロッテルダム国際映画祭、ドービル・アジア映画祭、ラス・パルマス国際映画祭、フリブール国際映画祭などで相次ぎ受賞する快挙を果たした。釜山国際映画際で初めて公開されて以降、口コミが広がり、独立映画『ウォナンソリ(カウベル)』に続く商業的興行も可能だとする期待も高まっている。「興行に成功すればそれはいいこと。でも、わたしがやりたい映画を制作したわけで、観客がどのように受け止めるかは個々人にかかっています。商業映画ですか?やる可能性もあればやらない可能性もあります。やりたい映画あって取りかかり、独立的に作ったために独立映画(自主制作映画)になったんです」

ヤン監督はロッテルダム映画祭での受賞後、制作費40億ウォン規模の商業映画演出のオファーを受けたが断った。また、最近も別の商業映画のオファーを受けたができそうにないという。自分の中に『ブレスレス』が残っており、まだ次の映画を考える余力がないと話している。

『ブレスレス』は16日に韓国国内で封切られる。
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