アコースティックデュオ「10cm」
アコースティックデュオ「10cm」
韓国音楽界で今もっともコラボしたいアーティストとして高い関心を集めているアコースティックデュオ「10cm」(シプセンチ)が単独「10CM Night~オヌルパメ Vol.4」を4月22日(土)に埼玉県・彩の国さいたま劇場小ホールにて開催した。

10cm の最新ニュースまとめ

 これまでに「少女時代」ユナや「SISTAR」ソユとのコラボ曲や、ガールズグループ「MAMAMOO」とのライブ開催など、様々なアーティストと共演してきた「10cm」。2016年の年末にはSBS歌謡大祭典で「BLACKPINK」ロゼ、「TWICE」ジヒョ、「EXO」チャンヨルとのステージをプロデュースし注目を集めた。2016年4月に韓国でリリースし大ヒットを記録した「春が好き??」は、ことしの春も韓国の音源チャートに再浮上し、春の定番ソングとして根強い人気を見せている。
そんな「10cm」が日本での活動を始めたのは2013年。「SUMMER SONIC 2013」に出演し、大橋トリオとのコラボ曲も収録されたアルバム「シプセンチ」で日本デビューを飾った。

 日本での特別なライブとしてシリーズ化している「10CM NIGHT~オヌルパメ」は今回で4回目。会場は普段は演劇やダンスの公演が行われている劇場のホールが選ばれた。「10cm」のホームグラウンドであるソウル・弘大(ホンデ)のライブハウスにいるかのような距離感を大切にしたいというコンセプトのもと、ステージから半円形に広がる客席は劇場ながらもどこかアットホームで、仰々しい舞台装置が取り払われたシンプルなステージからは、純粋に音楽を楽しもうと誘うような空気が感じられる。

 ボーカル・ジャンベのクォン・ジョンヨルとギター・コーラスのユン・チョルジョンがバンドメンバーと共にステージに登場し1曲目の「セビョク・ネシ(午前4:00)」を始めると、客席からは自然とクラップが起こり、会場全体が暖かい色に染まっていく。ユン・チョルジョンのアコースティックギターの旋律がリードする淡い水彩画のようなバンドの音に、真っ直ぐに伸びるクォン・ジョンヨルのボーカルが輪郭を描いていくような不思議な音像が天井の高い劇場空間に広がった。

 「オヌル・バムン・オドゥミ・ムソウォヨ(今夜は暗闇が怖いよ)」「Healing」を立て続けに披露すると、「こんばんはー僕たちは『10cm』です」とユン・チョルジョンが日本語でまずあいさつ。クォン・ジョンヨルも「今回のライブは会場がちょっと違います。今日は特別ですね」と今回の特別な会場にふれ、「よく見えますか?よく聴こえますか?」と客席に問いながら、「ステージからは皆さんがどんな服を着ているか、どんな表情をしているか、どんなメイクをしているかがよくわかります」とユーモアを交える。MCは基本韓国語での会話だが、ステージ上のスクリーンに日本語訳が同時通訳で映し出されるというのも「10cm」のライブではお馴染みの演出だ。
クォン・ジョンヨルが次の曲「キロヤオーブン(That 5minutes)」を紹介すると、客席からは歓声が飛ぶ。「あまりやらない曲なので、緊張します」と話していたクォン・ジョンヨルも歌声と共にやわらかい笑顔を客席へ向けた。

 大ヒットドラマとなったコン・ユ主演の「鬼(トッケビ)」のOST曲である「ネ・ヌネマン・ポヨ(僕の目にだけ見える)」でも、イントロが鳴り始めた瞬間に客席から声が上がった。

 軽快なテンポの「アナジョヨ(抱きしめてよ)」では客席のファンもコーラスに参加。1曲終えるごとに拍手の音も大きくなっていった。
「やっぱり僕、歌がとてもお上手ですね」と満足げにきりだすクォン・ジョンヨル。「これからも僕がお願いした時には、一緒に歌ってくれたら感謝します。でも次の曲はダメです(笑)。悲しい歌詞なので、ギターと歌を聴いてください」と始めたのはゆったりとしたアルペジオとサビのファルセットが美しい「クデワナ(君と僕)」。 

 「ノエ・コッ(君の花)」には演奏後、クォン・ジョンヨルの解説がついた。曰く「これは植物に関する歌詞ではありません。『10cm』の曲の中でもとてもエロい、変態的な曲です(笑)。韓国ではテレビ番組で放送可能な曲かどうか審議されるのですが、僕たちはとても頭を使ったので、韓国ではすべての放送局でこの曲を聴くことができます」とのこと。20代30代の女性ファンの心を掴む「10cm」の曲の中には“18禁ソング”と呼ばれるものが多数存在する。クォン・ジョンヨルは今回のライブの中で“エロい”という単語を何度か口にしたが、確かにそれは“セクシー”とは少し違う、彼ら彼女たちの日常に重なるような男と女の姿を切り取った歌詞なのだ。
「当然韓国のテレビ番組でこの曲は聴けません」と言わしめる「Hey Billy」では、間奏でクォン・ジョンヨルとユン・チョルジョンが「こどもはどうやってできるの?」「お母さんとお父さんが愛し合う」という日本語のナレーションを披露して笑いを誘った。

 「今回のコンサートで1番楽しいパートです」とスタートした「Oh! Yesh!」ではユン・チョルジョンのギターソロが炸裂し、クォン・ジョンヨルのボーカルもファンキーに唸る。そのままの勢いで「アメリカーノ」、そしてこのライブのテーマソングといえる「オヌルパメ(今夜に)」へ。明るい雰囲気の「アメリカーノ」のアウトロに被さるようにアーバンなベースラインが入り、ノンアルコールドリンクがふいに酒気を帯びた夜の街に変貌する。クォン・ジョンヨルの声はとてもセクシーに響き、ユン・チョルジョンの低音ボイスによるセリフのパートにもドキッとさせられる。

 「Good Night」では客席のファンを1人ステージに上げ、お互いの肩に頭を預け合いながら耳もとに語り掛けるように歌うクォン・ジョンヨル。次の「ストーカー」も悲しい歌詞のバラード曲で、甘く柔らかい空気に会場全体が酔いしれた。
この2曲についてクォン・ジョンヨルは、「『Good Night』の歌詞は、恋人に今夜は平和的に眠れたらいいねという治癒するような内容に見えますが、よく見ると歌い手と恋人は別れています。一緒にいなくて、別れた後にその恋人を心配する気持ちを込めています。『ストーカー』も片思いの気持ちを込めた曲です。とても悲しい曲を歌いました」と語った。

 「次は明るく楽しい曲を歌います。一緒に歌ってください」と「サランウン・ウンハス・タバンエソ(恋は銀河水茶房で)」で客席のファンと歌声を重ねると、続く「スダムスダム(なでなで)」でも「次の曲も一緒に歌ってください。もっと大きな声で歌ってください」というクォン・ジョンヨルからのリクエストに応えるように、客席からの掛け声も更にボリュームアップ。

 ライブも終盤に差し掛かり、「今までよりちょっと悲しい内容の美しい情緒を持った曲ではありますが、スダムスダム(なでなで)とサランウン・ウンハス・タバンエソ(恋は銀河水茶房で)に続いても感情が重くならず、さわやかな感情を与えられるソフトな曲です」と紹介された「クリウォラ(さよなら)」では「さっきよりももっと上手に歌ってください。さっきは声が大きく聴こえて感動的でしたが、次は柔らかい歌声でお願いします」とクォン・ジョンヨルのお願いも上級者向けになってくる。

 「今日の公演は場所が劇場だからか、それとも『10cm』日本公演を見に来てくれたお客さんに時間が流れて彼氏ができたのか、僕の目にはカップルが目につきます。めざわりですね(笑)。この増えたカップル比率に驚いた気持ちがまだ収集つかないので、次の曲は1人で歌います。一緒に歌わないでください(笑)」と始めたのは、桜の季節にカップルをうらやむシングルの曲、まさにこの瞬間のクォン・ジョンヨルの気持ちを歌っているような「春が好き??」。曲のタイトルにあるダブルのクエスチョンマークはカップルたちへのたっぷりの皮肉。この日ほどそれを感じたのは初めてかもしれない。そして客席のファンももちろん歌わずにはいられないのがこの曲。クォン・ジョンヨルも歌い終えると「1人で歌うって言ったのに(笑)。2番からちょっと寂しいと思ってたので、一緒に歌ってくれてありがたかったです」とファンへ気持ちを伝えた。

 「2017年で日本に来て4年。いつの間にかこんな劇場のように厳粛な場所で、客席いっぱいの皆さんを迎えて不思議な気持ちになります。最後の曲と言って皆さんが驚いたのは、時間が過ぎるのが早かったからでしょ?僕にとってもすごく名残惜しい公演になると思います」と語り、本編最後の「ピミルヨネ」を演奏する「10cm」。たった1日、1公演だけの特別な時間を「10cm」の音楽と過ごせた喜びが改めて胸をいっぱいにする。
ファンの大きな拍手で迎えられたアンコールステージでは「タバコ王スモーキング」、「コロナ」、「Fine Thank You And You?」の3曲を披露。

 韓国では今、正規アルバムを準備しているという「10cm」。「皆さんの拍手に応えられるような美しいアルバムを準備しています。欲が出て、もっといいアルバムをプレゼントしたくて長くかかっています。なので、いつ出せるか僕たちもわかりません。本当に一生懸命作っているのですが、いい曲を込めるということしかわかりません。たくさん期待してください。また日本に来た時、馴染みの顔をたくさん見たいと思います」とこの日のステージを締めくくったクォン・ジョンヨル。寡黙なユン・チョルジョンはステージからの去り際、客席に向かってありったけのギターピックをばらまいていった。

 大躍進を遂げた2016年を経ても、2人の姿勢が変わることはない。美しい音楽で愛すべき人々の心を表現することに誠実であるその姿が、聴く者の心を動かし、名だたるアーティストからの尊敬を集める。すでに「10cm」は韓国音楽界のメインストリームの一筋となった。何かが始まる、何かが変わっていくという予感、新しい時代の序章が2017年春ここ日本で幕を開けたような夜だった。



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