信じられない数の学生と市民が民主化運動に参加した
信じられない数の学生と市民が民主化運動に参加した
イ・ミンホとチャン・グンソクが生まれたのは1987年だ。今から29年前である。その1987年に韓国では民主化を求める市民と学生のデモが全土を揺るがせた。事態をおさめるために、大統領の全斗煥(チョン・ドゥファン)と野党指導者の金泳三(キム・ヨンサム)が、6月24日に会談を行なった。

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■政情は混迷するばかり

 会談で金泳三は1987年4月の大統領特別談話(大統領選挙を直接制でなく間接制で行なうことを表明)を取り消すことを求めたのに対し、全斗煥も「改憲論議を再開することが望ましい」と応えて、事実上特別談話を撤回した。

 しかし、両者の会談は決して実りのあるものにはならなかった。結果から言えば、不調に終わったのだ。

 国民の間には失望感が広がった。

 26日午後6時からは、在野団体「民主憲法奪取国民運動本部」が主催する国民平和大行進が全国各都市で開催される予定となった。警察はこの大行進を不法デモとして厳重に取り締まる方針を打ち出し、6万人近い戦闘警察を動員して朝から大がかりな検問を実施。さらに在野の指導者たちを自宅軟禁する処置に出た。

 これに反発した学生たちは全国各地の都市で戦闘警察と激しく衝突。政情がさらに混迷の度合いを深めていく中で、民主党は「現政権を終わらせるために徹底的な闘争を行なう」と、悲壮な覚悟で民主憲法奪取への闘争継続を宣言した。

 韓国は、もはや何が起こってもおかしくない状況に追い込まれた。情勢は逼迫するばかりだ。その最後の危機において、劇的な反転があった。

■オリンピックに救われた

 民正党を代表して盧泰愚(ノ・テウ)は1987年6月29日午前に「国民の大団結と偉大な国家への前進のための特別宣言」を発表し、大統領直接選挙制を骨子とした事態収拾案を発表した。

 主な内容は次の通りだ。

◆与野党の合意のもとで憲法を改正。大統領直接選挙によって平和的に政権を委譲する。

◆基本的人権を尊重して言論の自由を保証。社会の各分野で自治と自立を確立する。

 ここまで与党が譲歩するようになったのも、国民の根強い抗議行動があったからだ。さらに、翌年秋にソウル五輪を控えていたことも見逃せない。盧泰愚は談話をこうしめくくっている。

「オリンピックまでわずかしか残っていない現時点で、国論が分裂して韓国が世界から辱めを受けるようなことがあっては断じてならない」

 この盧泰愚の譲歩案を金泳三も最大限に評価し、「国民に希望を与える内容だ」として全面的に歓迎する意向を示した。

 ただし、その譲歩案を全斗煥が受け入れるかどうかは微妙な情勢だった。

■民主化闘争が劇的に勝利!

 6月30日に盧泰愚は青瓦台の全斗煥を訪問して、譲歩案の受け入れを要請した。形のうえでは、盧泰愚が全斗煥を説得する形で譲歩案が正式に政権側で認知されることになった。

 しかし、全斗煥の報道担当秘書官はのちに、譲歩案を先に提案したのは全斗煥であり、大統領直接選挙で有利になるように盧泰愚の功績にしたのだと明かした。真相はどちらにせよ、断崖絶壁に立たされていた韓国の政局は完全に息を吹き返した。

 全斗煥は7月1日、テレビやラジオを通じて特別談話を発表。その中で6月29日に盧泰愚が発表した事態収拾案について「私も全面的に賛成であり、国民の間に妥協と対話の精神をもたらす」と歓迎する意向を示した。

 これによって韓国の民主化闘争は劇的な勝利を得ることになった。そうした高揚感が韓国全土に漂う中で、チャン・グンソクは8月4日に生まれた。

 彼が誕生したとき、すでに韓国は軍事国家から民主国家への転換をはかっていた。チャン・グンソクは幸いなことに、軍事独裁をまったく知らずに育ったのである。

■来年は30周年記念

 1987年12月に、与党の約束通り大統領の直接選挙が行われ、盧泰愚、金泳三、金大中(キム・デジュン)の三大有力候補が激突した。金泳三、金大中という両野党候補が一本化できれば与党側の盧泰愚にとっても大きな脅威だったが、結局は両陣営が分裂したために、野党票もそれぞれ分散する結果となった。

 それによって、漁夫の利を得る形で盧泰愚が当選を果たした。

 いずれにしても、民意が反映しやすい直接選挙によって平和的に政権が委譲されたという事実は大きかった。

 以後、韓国の民主化は着実に実行され、軍事政権時代には考えられないような健全なる市民社会が構成されることとなった。つまり、韓国がはっきりと変わったのは、1987年6月29日以降である。この日を境に韓国は民主国家に転じ、表現の自由を得た。

 そうした自由な空気の中で、イ・ミンホやチャン・グンソクはすくすくと育ったのである。彼らはまさに「民主化の申し子」と言えるだろう。

 韓国が民主国家に転じて今年で29年。来年には、記念すべき30周年を迎えることになる。

文=康 熙奉(カン ヒボン)
(ロコレ提供)

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