韓国で酒といえば、焼酎である。(写真提供:ロコレ)
韓国で酒といえば、焼酎である。(写真提供:ロコレ)
■ビール党は少なかった

韓国ドラマ「冬のソナタ」のネタバレあらすじ、キャスト、視聴率、相関図、感想

 韓国で酒といえば、焼酎である。

 10年ほど前、地方をまわっていて食堂に入ると、私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)を除いてみんな焼酎を飲んでいる、ということがよくあった。

 私はビールを頼むのだが、食堂に置いていないこともあったりして、店のアジュンマ(おばさん)があわてて外に買いに行っていた。それほど、地方の食堂でビールを飲むというのはポピュラーではなかったのだ。今では、ビールを飲む人が少しずつ増えてきているようだが…。

 まだ貧しかった1960年代を描いた韓国ドラマを見ていると、出てくる男たちはこぞってマッコリを飲んでいる。当時は「酒といえばマッコリ」だったことが、ドラマを通してわかってくる。

 ただし、今、ソウルでマッコリを飲んでいる人はあまり見かけない。「マッコリは貧しかった時代の安酒」というイメージがあるせいか、見栄っ張りの韓国人はマッコリなど眼中にない様子で焼酎ばかり飲んでいる。

 その飲み方にもしきたりがある。お湯や水で割らない、継ぎ足しはしない、女性はお酌をしない…などである。


■割り勘はほとんどない

 酒の飲み方にも「長幼の序」が出る。

 韓国では、年下が年上の前で酒を飲むときには、顔をそむけたりしている。

 失礼では?

 そう考えるのは日本的すぎる。

 韓国の慣習では、年下が年上の前で酒を飲むのは生意気なので、失礼がないように横を向きながらコッソリ飲むのである。

 ただし、ずっとそれをやられては、年上も落ちついて飲めない。

「横を向かなくていいよ」

 そう年上が年下を促したり、逆に年下が年上に向かって「横を向かなくていいですか」と断ったりしている。

 こんなやりとりこそ、日本から見たら「面倒くさい」と思うかもしれない。

 酒の勘定でも割り勘はほとんどない。結局は誰かがまとめて払うことになる。

 この場合、払う人は暗黙の了解で決まっている。かならず年長者が率先して払うわけではない。「誘った人」、「肩書きが上の人」、「お金を持っている人」、「今日は絶対に払いたいと思っている人」、「やっぱり年上の人」などが払う立場になる。

 仮に「割り勘にしよう」と誰かが言いだしたりしたら、「そんな日本人みたいなことをするな!」と年長者が一喝するだろう。

 ただ、若者の間では、合理的なやり方だとして割り勘が見られるようになってきたのだが…。


■『冬のソナタ』で有名な海岸

 韓国のあちこちで飲み歩いてきたので、酒に関しては様々な記憶があるが、1つだけ思い出してみよう。

 2004年7月、江原道(カンウォンド)のチュアム海岸に行ったときのことだ。

 この海岸は『冬のソナタ』の第18話に出てくる。ユジンとの別れを決意したチュンサンが彼女を誘って行った海が、まさにチュアム海岸だった。ドラマの名場面を思い出す人も多いだろう。

 実際にとても美しい海岸で、私もチュンサンとユジンが泊まった民宿にやっかいになった。

 夜は地元の食堂で極上の刺し身を食べ、かなり酔いがまわっていた。それでも懲りずに、酒を買って砂浜に腰を下ろして飲んだ。

 焼酎が何本あっても足りない。その度に再び買い出しをして、砂浜で飲み続けた。

「チュンサンとユジンもこの砂浜に座っていたなあ」

 そんなことを思いながら、『冬のソナタ』の名場面にあやかって、海に向かって思い出の品を投げるポーズまでしてみた。ほとんど泥酔状態である。

 寝入ってしまった。

 夢の中で、犬が吠えている。その声がどんどん近づいてくる。しまいには、犬の臭いまでしてくるではないか。


■怪しい者ではありません

「夢に臭いが付いているのか」

 そう思った瞬間に目が覚めると、ドーベルマンのような猛犬がまさに私に襲いかかろうとしていた。

 その犬を誘導しているのが銃を持った兵士だった。それも数人。私は猛犬と屈強な男たちに囲まれていた。

 本当に恐ろしかった。一瞬で酔いが覚めた。

「何をしている?」

 若い兵士の鋭い声が飛んだ。

 何をしているも何も、酒に酔って海岸で寝入っていただけだ。<それのどこが悪い?とにかく、命だけはお助けください>私は猛犬を避けながら、必死にそう思った。

 兵士たちの銃が闇の中で不気味に光っていた。

「ここは夜間立ち入り禁止だ。そんなことも知らんのか。」

 兵士にきつい口調で言われた。

 彼らの説明によると、北朝鮮の兵士の侵入を防ぐために夜間の海岸は完全な立ち入り禁止になっているそうだ。

 うかつにも知らなかった。私はとにかく「怪しい者ではありません。日本から来た、ただの酔っぱらいです」ということを説明して、逃げるように民宿に戻っていた。まさに「脱兎のごとく」である。

 あんなに怖い思いをした酒はなかった。

 チュンサンを気取ったのがいけなかった。彼らも夜間立ち入り禁止の海岸で撮影をしていたわけだ。もちろん、軍の許可を得ていたに違いないが…。


文=康 熙奉(カン ヒボン)
(ロコレ提供)

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