映画「プンサンケ」を手掛けたチョン・ジェホン監督
映画「プンサンケ」を手掛けたチョン・ジェホン監督
8月18日(土)より日本全国ロードショーとなる韓国映画「プンサンケ」(2011年6月韓国公開)。ユン・ゲサンとキム・ギュリ主演で、南北分断を今までにないかたちで表現しヒットを記録した同作。その指揮を取ったのが、1977年生まれの若きチョン・ジェホン監督だ。

韓国映画「プンサンケ」のキャスト、公開日、あらすじ

 チョン・ジェホン監督は、韓国美術界の巨匠キム・フンスの孫で、幼少期から絵や声楽を学んでいた芸術家。キム・ギドク監督の作品に衝撃を受け、同監督に会うためアポなしでカンヌに渡った。それが縁となり、同監督作「絶対の愛」(06)、「ブレス」(07)の助監督を務める。2007年、短編映画「Mul-Go-Gi」(原題)が批評家の関心を集め、「第64回ベネチア国際映画祭」に招請。2008年には、長編デビュー作となった「ビューティフル」が「第58回ベルリン国際映画祭」のパノラマ部門、「第10回ドーヴィル・アジア映画祭」オフィシャルコンペティション部門に正式招請され、「第22回福岡アジア映画祭」では最優秀作品賞を受賞した。今後、韓国映画界を背負って立つ若手監督のひとりだ。

 映画「プンサンケ」は、38度線を飛び越えてソウルと平壌(ピョンヤン)を行き来し、3時間以内に何でも配達する“プンサンケ”と呼ばれる正体不明の男が主人公。運ぶのは、離散家族の最後の手紙やビデオメッセージ。ある時、韓国に亡命した北朝鮮元高官の恋人イノクをソウルに連れてくるという依頼が舞い込み、いつものように北朝鮮に潜入したプンサンケは、無言のままイノクを連れ出し38度線へ。2人は何度も命の危険にさらされるうち、互いに言い知れぬ感情を抱いていく。

 製作総指揮・脚本はキム・ギドク氏が務め、シナリオに心打たれた主演俳優のユン・ゲサンやキム・ギュリをはじめとする全ての俳優とスタッフは無報酬での参加を決め、極寒での過酷な撮影に挑んだ。

<b>-主人公が“プンサンケ”と呼ばれる理由について教えてください。</b>
豊山犬(プンサンケ)は虎を捕まえられるような獰猛な強い犬でありながらも、主人に対してはとても忠実な犬種であることが主人公の性格を表現していると思い、映画のタイトルも「プンサンケ」にしました。
また、主人公は北朝鮮製のたばこ「豊山犬(プンサンケ)」を吸うのですが、実は最初、そういう銘柄のたばこがあることを私は知りませんでした。映画の主人公の呼び名を「プンサンケ」とした際、観客は「なぜにプンサンケなのか」と疑問を抱くだろうと思い悩んでいたときに、友人からこのたばこの存在を聞きました。主人公が「豊山犬」というたばこを吸っていれば、キャラクターの理解もしやすいのではと考えました。

<b>-今回の映画は南北分断という悲しい現実を描きつつ、ブラックコメディの要素が入っていたと思います。監督は米国で育ったそうですが、韓国から離れていたことで、このような表現が可能だったのでしょうか。</b>
米国で育ったことが影響しているところはあるかもしれません。韓国人にとって南北は、どうしても“戦争”という暗いイメージがあります。しかし、多くの観客は戦争を知らない世代で、そういう方々に気楽にこの映画を選んでもらうにはどうすればいいかと考えたとき、ドラマ、アクション、ブラックコメディを取り入れることだと思いました。テーマが重い分、観客にとって面白いと思えるジャンルを取り入れて作りたかったんです。

<b>-暗闇のシーンはもちろんですが、全体的に色がないように感じました。そういう部分も含めて、映像上こだわった部分はありますか。</b>
韓国の映画は画面がフラットに見えるものが多く、立体的に見せることが少ないと思うのです。私は、こちら側が明るかったら向こう側は暗いという風に陰影をつけたいという思いが強くありましたので、照明を研究しこだわりました。また、南北を表すときに、北と南の差のようなものを映像でも見せたかったのです。

<b>-主演のユン・ゲサンさんは劇中、言葉を一度も発していませんが、映画としてとても極端な手法だと思います。それに関して難しさはありませんでしたか。</b>
映画上、言語が重要であるとは考えませんでした。言葉がなくても、感情を伝えることができます。逆に言葉を発してしまうと、プンサンケの想いが壊れてしまうのではという場面もありましたしね。ユンさんとはキャラクターについて何度も話をしました。目で演じることに重点を置き、カメラワークもクローズアップする部分が多いので、そこで感情が表れるようにと指示しました。

<b>-南北分断を扱うヒット映画は他にもたくさん存在しますが、「プンサンケ」ならではの表現の特徴は何ですか。</b>
多くの映画は戦争映画でした。そして過去の話です。軍人が主人公で飛行機や戦車が出てくるような内容ですよね。あるいは、スパイ物です。現在を舞台に、離れ離れになってしまった家族の悲しみを描くことは少なかったと思います。私は実際に、韓国でカッコいいスパイは見たことがありません。しかし、離散家族や脱北者は存在します。私の母方の祖父も離散家族です。だからこの映画を自分自身の視点で作りたかったのです。

<b>-大変だったシーンやハプニングはありますか。</b>
とても寒い時期に低予算で、かつ25日以内に撮影を終えなければならなかったので、全てのシーンが大変でした。それから、撮影中に北朝鮮が延坪(ヨンピョン)島へ砲撃するという事件も起きました。延坪島は撮影場所から近いということもあり、スタッフや出演者全員に緊張が走りました。また、特に記憶に残っている撮影は、凍えるような寒さの中、水に入って撮影したシーンです。過酷なシーンが多かったにも関わらず、幸いなことに事故が起こらなかったので、本当に良かったと思っています。それくらいスタッフ、出演者全員が集中し緊張感を持っていました。こぼれ話としては、撮影現場にコーヒーが用意されていたのですが、夜中に私の怒りが頂点に達したときに飲むという意味で、“怒りのコーヒー”と名付けられました(笑)。

<b>-日本の観客には、どのような視点で見てほしいですか。</b>
私は、この作品を戦争映画だとは思っていません。しかし、南北分断を扱っている作品であることは確かなので、朝鮮半島は今でも南と北に分かれているという事実を日本の皆さんに少しでも理解していただければと思います。そして、何より楽しんでいただくことが私の一番の望みです。この作品は、アクションやブラックコメディなど様々な要素を含んでいるので、観客の皆さんが楽しいひとときを過ごしてくださることを願っています。

<b>-南北統一に関して、世代によって考え方は異なると思うのですが、20~30代の監督さんと同世代の方々はどのように思われているのでしょうか。</b>
私がすべての人を代表して述べることはできませんが、はやく統一した方がいいと思っています。休戦してから60年が経ってしまい、さらに年月が経ってから統一されたとしたら、当事者である引き裂かれた家族はいなくなってしまいます。60年間肉親に会えない状況を自分に置き換えて想像するとつらすぎます。統一は大変だとしても、映画のように手紙だけでもやり取りができる環境になってくれたらと思います。

<b>-好きな日本人俳優や好きな日本作品はありますか。</b>
「冷静と情熱のあいだ」に出演していた竹野内豊さん、そして歌手としても有名な中島美嘉さんが好きです。昔「ビューティフル」という映画を作る際、イメージしたのが中島さんでした。それくらい好きな女優さんなので、いつか彼女が出演する作品を撮ってみたいです。好きな日本の映画は「さくらん」、「嫌われ松子の一生」、「告白」です。

<b>-映画の世界に入ったきっかけを教えてください。</b>
もともと、たくさんの人と通じ合いたいという思いがあり、「映画ほど人に強い印象を与えるものはない」と思ったことがきっかけです。「映画が嫌い」という人は、なかなかいないですよね。私も日本映画を見たことで、日本という国を理解できたように、他の世界を身近に感じることができるのも大きな魅力だと思います。

<b>-映画を撮るときのポリシーやこだわりはありますか。</b>
個性的な映画を撮りたいですね。私は個性的な監督たちが好きです。例えば、アメリカのスティーブン・スピルバーグ監督。彼の映画はとても個性があると思います。「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督や「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督も好きです。独創的な映画を私も撮り続けたいです。

<b>-映画「プンサンケ」を見る方へメッセージをお願いします。</b>
私は映画を制作するとき、何かを教えようとか自分の思想を伝えようという考えはありません。この映画を見ながらカッコいいユン・ゲサンさんや美しいキム・ギュリさんに魅了されて、面白く見てもらえればうれしいです。観客を楽しませるために私は映画を作っているのですから。

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