(画像提供:wowkorea)
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昨年末より日韓両国は駐在大使の交代を巡って水面下での調整と神経戦が展開されていたのは、報道に散見されていたので周知の事実だろう。そして結局、韓国与党の国会議員カン・チャンイル(姜昌一)氏が駐日本大使に、相星孝一氏(駐イスラエル大使)が駐韓国大使に任命され、相互にアグレマンが与えられたようだ。

そもそも「アグレマン」(仏語「Agrément」で承認・同意の意、英語の「agreement」)とは、相手国の派遣する大使に最高水準の外交官特権の付与が相応しいか否かを審査するものだ。外交官特権を悪用して国内で犯罪や反国家的言動を犯しうる人物を拒絶出来る主権国家としての権利でもある。

通常、相手国のアグレマン承認がなされるまでは、大使人事と言うものは非公開、万が一マスメディア等に情報が流出してもノーコメントと言うのが国際的な慣例だ。

つまり姜氏を大使としてアグレマン承認したと言うのは、日本国家が少なくとも最高水準の外交官特権を与えて、自国で大使として受け入れるのに相応しい人物だと承認し、認めたことを意味する。

日本政府が彼のアグレマン承認に躊躇したのは、以下のような反日的な言動を見せてきたとされている。

(1) 2011年5月、日本の許可無く北方領土「国後島」を訪問して、ロシアの領有権を支持した。
(2) 国会議員として日本の右翼人物だと見なした日本人のリストを作成して、韓国への入国禁止を法務部(法務省)の出入国管理担当部署に求めた。
(3) 2015年末、朴槿恵政権での慰安婦合意の無効化を強く主張した。
(4) その際に天皇を「日王」呼ばわりし、かつてのイ・ミョンバク(李明博)元大統領の如く、跪いて謝罪しろと要求した。
(5) 2019年2月、韓日議員連盟会長として訪日した際に重ねて天皇への謝罪要求と共に、天皇は戦争犯罪の主犯だと韓国人は見なしていると主張した。
(6) 2019年7月、その直前に日本政府が行った輸出規制(韓国からみると経済制裁)について日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA:General Security of Military Information Agreement)の破棄を主張した。

学者や単なる民間活動家ではなく、政治家・国会議員としてこのような活動を見せてきた姜氏に駐日大使としてのアグレマンを与えたのは、「北方領土に対する日本の領有権の否定」「天皇への侮辱」「米国の極東政策の否定」を日本が少なくとも黙認し受け入れたことを国際的に示してしまったとの意見もある。

そして元日本経済新聞ソウル特派員だった鈴置高史氏の指摘だが、韓国からすれば、アグレマン承認されればそうした韓国の求める対日言動を日本も認めた事を意味し、万が一拒絶されれば知日派の大使派遣という日韓関係改善を日本が拒絶したのだという対外(特に対米)宣伝が可能になると言う、どちらに転んでも日本にダメージを与えうる大使人選であった。

故に拒絶されても良しと見ていたからこそ、通常非公式に行われる正式なアグレマン承認以前に、大々的に韓国は大使交代と後任を公表したのだと言う。

韓国側では姜氏を済州島の僻地出身でソウル大学を経て東京大学の博士号を持つ、知日派の研究者として見なしている。それ故に第一回日韓歴史共同研究(2004~05年)にも参加していた。そこに日本側から参加していた古田博司筑波大名誉教授の回顧を見ると、姜氏の学者としての研究観が見えてくる。国会議員選挙に出馬するからと、作業途中で辞めてしまったことをみると、姜氏はやはり学者よりは政治家に向いていたようだ。

鈴置氏の指摘を完全否定するものではないのだが、むしろ以前解説した礼部・礼曹的な対日外交・姿勢を指摘したい。つまり日本からすれば反日的な言動や、韓国式「知日派」の研究姿勢・成果であっても、任命権者のムン・ジェイン(文在寅)大統領からすれば姜氏のこれまでの言動や研究成果こそ日本が受け入れるべき、言説、知識、価値観、歴史観と言った、日韓関係の基礎であり、正義そのものなのだ。

だからこそ日本との議員外交と言う名の韓日議員連盟会長に選ばれていたはずだ。そしてそうした”韓国式の正義”に基づいて日本は”教化・徳化”の対象であり、大使人選を通して日本を変える、あるいは日本が(反省して)変わる「機会」を与えたのだと、文大統領は意識的・無意識的に考えているかもしれない。

姜大使に対する菅首相のこれから姿勢には、日韓外交関係の未来が映ってくるはずである。

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