河正雄さん=(聯合ニュース)
河正雄さん=(聯合ニュース)
【ソウル聯合ニュース】在日韓国人2世の河正雄(ハ・ジョンウン)さん(75)は23年にわたり、優れた美術品を韓国各地の美術館に寄贈してきた。ピカソやシャガール、ムンク、ダリら20世紀の巨匠の作品から李禹煥(イ・ウファン)、全和凰(チョン・ファファン)、孫雅由(ソン・アユ)ら日本を中心に活動した韓国人画家の作品まで、その数は1万点を超える。 1939年に東大阪で移住労働者の息子として生まれた。画家を志すも貧しさから夢をあきらめ、事業で成功すると美術品を集め始めた。 単なるコレクターでも、美術品でもうけようという投資家でもない。歴史と魂がこもる文化芸術の真価をより多くの人と共有するという信念で、慈しむ作品を惜しみなく寄贈した。 故国への芸術・文化支援活動は、1993年に光州市立美術館に212点の作品を寄贈したことに始まる。両親の故郷である全羅南道の霊岩郡立河美術館、朝鮮大美術館(光州市)、全北道立美術館(全羅北道完州郡)、大田市立美術館には、自らの目で選び、寄贈した作品1万点余りが展示されている。それは河さん自身の人生だけでなく、韓国の美術界にも大きな影響を与えた。 「絵には歴史があります。特に苦しみの時代を記録した在日同胞画家の作品は、社会に寄贈し、より多くの市民がその時代を記憶に刻むべきだと思いました」――。在日同胞の画家たちは他郷で長らく差別と憎しみ、貧しさと絶望にあえいできた。「ごみ同然」とまで酷評された彼らの作品は、河さんのコレクションとして真価を認められた。今や韓国が生んだ世界的画家となっている李禹煥の作品は億の値がつくが、1970年代後半は50万円あれば買えたと、河さんは振り返る。 河さんの関心は美術にとどまらない。 小中高時代を過ごした秋田県で、植民地時代に強制徴用された朝鮮人の慰霊碑を建立した。同地でそのまま埋もれかけていた朝鮮人の強制労働の実態も突き止め、帝国主義の現代史の陰で苦しんだ同胞の痛みに寄り添った。 また、韓国では光州に視覚障害者の福祉施設を設置し本を贈る運動を展開するなど、社会的弱者がより人間らしい人生を送れるよう手助けした。 河さんの現在の肩書きは秀林文化財団(ソウル市)理事長だ。各地に足を運び韓国の伝統芸術を世界に知らしめることに打ち込んでいる。 光復(日本による植民地支配からの解放)70周年を控え、聯合ニュースのインタビューに応じた河さんは、「祖国」や「故郷」に触れるたび、目を赤くした。 日本生まれの河さんが両親の故郷である霊岩で暮らしたのは、母親の背に負われていた幼いころの2年間だけだ。それでも周囲からの日本帰化の勧めにはついに従わず、現在も在日韓国人として生きる。 光復を迎えたのは5歳の時、大阪だった。それから70年の今、韓日両国には他者に譲る「推譲の精神」が必要だと、河さんは繰り返した。かつての日本では推譲の精神を広めた二宮尊徳の銅像に頭を下げる姿がよく見られた。ここしばらくは忘れられていたようだったが、2011年に東日本大震災が起き、推譲の精神の必要性が再び論じられていると感じる。河さんは、韓日両国だけでなく全人類がこうした精神で新たに世界を構成すべきだと言葉に力をこめた。 歴史については「数多くの選択の積み重ね」と考えている。正しい歴史のために選択すべき対象は「当然、平和だ」と言い切る。 安保法制の推進など、安倍内閣の最近の動きには鋭い反応を見せた。安倍晋三首相は自分の父親や祖父にならおうとしているように映るが、誤った歴史に対し言葉だけで、心からの反省がないことが問題だとした。河さん自身、小学校から12年間日本で教育を受けながら日本の侵略の歴史については一度も学んだことがないと、日本のゆがんだ歴史教育を指摘した。 河さんにとって祖国は特別な存在だ。1万点の美術品の寄贈でも故国への思いは表しきれない。「東日本大震災が起きた時、日本を離れるようにという電話をずいぶんもらいました。しかし、これまでの人生は日本人と共に過ごしてきたし、死ぬまで彼らと共にあるべきだと思い、一緒に涙を流しました。それでも日本に対する愛より、故国に対する愛は2、3倍も大きい気がします。それは苦しみにつづられた同胞に対するやるせない気持ちともいえます」 1973年に両親に付き添って初めて故郷を訪ねた時に感じた温かい「肉親の情」が、「私は韓国人」というアイデンティティーを確かにしたが、河さんには民族主義者よりヒューマニストという表現のほうが似つかわしい。日ごろから、「自分の利益でなく、分かち合い、気を配る気持ちが最も美しい人間の価値だ」と口にしている。 絵画を寄贈する活動は人々と楽しみを分かち合おうという奉仕であり、奉仕に最高の幸せを感じた。河さんは「お金が十分なければメセナ(芸術・文化支援活動)をできないというわけではありません。心の問題なんです。小さなこと、できることから周りに尽くしてみてください」と語りかける。それが幸せをつかむことになるのだという。 mgk1202@yna.co.kr
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