【ソウル21日聯合ニュース】1997年に北朝鮮から亡命した黄長ヨプ(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党秘書を殺害するよう司令を受け韓国入りしていた北朝鮮の工作員2人が、関係当局に逮捕され、社会に衝撃を与えている。
 北朝鮮が韓国に送り込む工作員は、一般的に韓国社会を混乱させることと各種機密収集など包括的任務を与えられるとされてきた。今回、脱北者を装い韓国入りし逮捕された2人は、黄元秘書の暗殺を目的としていた。
 過去を振り返っても、今回のようなケースはほとんどなく、金正日(キム・ジョンイル)総書記の暴露本を出版した金総書記の前妻(故人)のおい、李韓永(イ・ハンヨン)氏が、1997年に殺害された事件を唯一挙げることができる。
 黄元秘書は最近、大学生に北朝鮮の実情を伝える安保講演を不定期で行っているが、定期的、公式な対外活動を行わなくなって久しい。また、脱北者らが運営する北朝鮮向け短波ラジオ「自由北韓放送」で民主主義講座の番組を持っているが、これも一般人聴取者は多くない。とはいえ、こうした活動で黄元秘書は、「金正日体制」を辛らつに批判していると、周辺人物らは話す。3月のラジオ放送では、「始終一貫、ここ(韓国)を赤化することが、金正日の目標だった」と述べ、韓国で金総書記らと対話しても得るものは何もないと主張し、北朝鮮を直接的に批判した。
 また、北朝鮮が寧辺核施設の冷却塔爆破をカードに米国との対話を引き出そうとしていた2008年9月には、「『振り』にすぎない核施設廃棄に一喜一憂してはならない」と述べている。これまでの発言からも、北朝鮮にとり黄元秘書は「目の上のたんこぶ」のような存在だといえる。それでも、亡命から13年立った今なぜ、殺害しようとしたのかという疑問が残る。
 実際の根拠はないものの、その理由を最近の北朝鮮内部事情の変化に見出す分析が有力だ。代表的な例が、金総書記の最有力後継者とされる三男ジョンウン氏への権力継承だ。
 北朝鮮は昨年1月にジョンウン氏を後継者に内定したと伝えられる。金総書記の健康状態も完全ではなく、後継体制の構築は差し迫っている。そうした状況で、痛いところばかりをつつく黄元秘書の存在は、3代権力世襲の正当化論にも悪影響を及ぼすと判断したとみることができるというものだ。
 また、黄氏は2008年9月にハンナラ党議員に対し、金総書記の後継者について、中国政府の管理と妹婿・張成沢(チャン・ソンテク)朝鮮労働党中央委員会行政部長の後援を受けてきた、長男の正男(ジョンナム)氏が最も可能性が高いと述べている。こうしたたぐいの発言も、ジョンウン氏周辺の「軍部強盛派」を刺激するには十分だと指摘される。
 一方で、昨年の故金日成(キム・イルソン)主席の誕生日に開催された「祝砲夜会」(花火大会)や経済再建運動「150日戦闘」を主導し、後継者としての治績を重ねているとされるジョンウン氏が、黄氏を排除することで新たな治績としようとしている可能性もあるとの分析もある。
 北朝鮮工作員だったある脱北者は、「1990年代にも、一部工作部員が金総書記に黄氏暗殺計画を報告したことがあるが、金総書記が許さなかったと聞いている」と明らかにしながら、今回はジョンウン氏の治績のために反逆者を処断し、対内外的に誇示する目的で軍部が計画した可能性があると指摘した。



Copyright 2010(C)YONHAPNEWS. All rights reserved. 0