韓国で列車に乗ると、面白い出来事によく遭遇する(写真提供:ロコレ)
韓国で列車に乗ると、面白い出来事によく遭遇する(写真提供:ロコレ)
■ビクビクしていた乗客が豹変!

 韓国の地方を鉄道で旅しているときの話である。

 乗った特急列車は全席指定だった。指定席券を買って乗り込むと車内はガラガラ。指定された号車にはたった1人しか座っていなかった。

 かなり高齢の女性だったが、私が車内に入ったときに、なぜかキョロキョロしていた。落ちつかない様子だ。

「もしや指定席券を持っていないのでは」

 そう直感した。車掌が検札に来るのを恐れているような素振りだった。

 私は先客の女性の視線を感じながら、指定席券に書いてある自分の座席を探した。ようやく見つけたら、そこは女性が座っている席だった。

 車内にはたった1人しか乗客がいないというのに…。

 どうしたらいいのか。

 躊躇はしたが、やはり決まりなので、私は声をかけた。

「すみません。そこは私の席なんですけど」

 そう言った瞬間の、女性の豹変ぶりがすごかった。

 ついさっきまでビクビクしていたのに、「席をどいて」と促された途端に大きな声を出した。

「見てみなさい。ガラガラじゃないの。あんたも好きな席に座ればいいでしょ」

 強い口調で私はおこられた。その剣幕に従うしかなく、私は自分の席を断念して、他の空いている席に移った。


■騒々しくて楽しい車内

 席に座って冷静になれば、先客の言うとおりかもしれない。

 車内はガラガラなのである。しかも、相手は相当に年配の女性。わざわざ移ってもらわなくても、私が気を利かせればよかった。たとえ、女性が指定席券さえ持っていなかったとしても。

 杓子定規だったようだ。日本的には「決まりは決まり」なのだが、ここは韓国だった。なにごとにおいても、現実にそくして融通を利かせる国なのである。

 もう一つ、別のエピソード。高速列車ができる前の話だ。

 ソウルから大邱(テグ)まで、在来線の急行列車に乗った。全席指定だったが、満席で席を取れない。当時は立席特急券というものがあった。立ちっぱなしを覚悟して乗るのである。

 私は乗車するとすぐに食堂車に行き、ビールを飲みながら粘った。大邱まで4時間、何本のビールを飲んだことだろうか。

 よく見ると、私と同じ目的の乗客が何人もいた。3時間が過ぎた頃にはみんないい気持ちになって、そのうち歌い始める人もいた。その人はなんと、ギターまで持っていた。

 私も大いに歌った。しまいに食堂車がカラオケルームのようになった。しかも、生ギターの伴奏つきである。

 あんな騒々しくて楽しい車内は、後にも先にも他になかった。


文=康 熙奉〔カン・ヒボン〕
(ロコレ提供)

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