＜コラム＞今年もっとも惜しかったドラマ、主演クォン・サンウに聞く

今年のもっとも惜しかった韓国ドラマは何？と言われたら、間違いなくクォン・サンウの主演の「メディカルトップチーム」（韓国MBC）だと答える。

クォン・サンウ の最新ニュースまとめ

　この作品、実は万全な体制で臨んでいたドラマであった。クォン・サンウ、チュ・ジフン、チョン・リョウォン、オ・ヨンソなどの豪華キャスト。その上、イケメン演技アイドルの「SHINee（シャイニー）」ミンホ。更に、有名演出監督のキム・ドフン。まだまだある。かつて失敗の例のない「医学ドラマ」という大人気ジャンル。誰もがヒットを予感していた作品だった。

　主演のクォン・サンウは今年の初旬に放映したドラマ「野王」（韓国SBS）で30%に迫る高視聴率を叩き出していたし、キム・ドフンPDも「太陽を抱く月」で視聴率40%を超える大ヒットを記録したところだった。まさに「役者はそろった！」という感じでスタート。

　しかし、結果は大コケ。視聴率は回を重ねるごとに落ち込み、最終話（視聴率5.7%）まで回復することはなかった。

　長年「ろれつの悪さ」が弱点とされていたクォン・サンウも、頭脳明晰な天才医師のキャラクターを演じきるため特訓を受けていた。唯一の心配要素さえ排除していた。しかし問題は思わぬところに潜んでいた。

　そう、ストーリー構成や台本（せりふ）の精度がしっかりしていなかったのだ。ドラマの諸設備やセットにおいても、今までの医学ドラマより優れていたし、韓国ソウルに実在する「シンチョンセブランス病院」を舞台に描かれていたので、物理的には「リアルさ」も伝わってきた。それが、まさか台本に問題があるなんて、放送開始前には誰にも予想できなかったのである。

　各分野で最高権威と言われる名医たちが集まって「ドリームチーム」を成すという設定は、ドラマの素材として非常に魅力的だったが、細部まで具現化することには失敗したのだ。

　ドラマのコンセプトにおいては、実際の病院ではあり得ない「ドリームチーム」という、ある意味「ファンタジー」の世界を、実在する病院で起きている話のように見せかける「リアルさ」が肝だった。

　従って、本来の台本を適切に調整、アレンジする必要があったが、これがスムーズに行かなかったようだ。例えば本来、主人公の天才医師パク・テウン（クォン・サンウ扮）は田舎に隠居しながら自身の実力を隠してのんびりと生きるキャラクターなのだが、それがそのまま非現実的なキャラクターとしてカメラに収まってしまったこと。

　視聴者は医学ドラマならではの緊張感とリアリティーを求めていたのに対し、主人公は「ファンタジー」的なキャラクターのまま、のんきに描写されてしまったので、ギャップが生じてしまった。一般の人々は経験することのない病院の裏側を医学ドラマを通じて「代理満足」したいというのが「医学ドラマ」視聴者の本音。そこが主人公の非現実的なキャラ設定からしてハズレていたのだ。

　これにつられる形で、当初はまだマシだった他のキャラクターたちもぶれ始めた。完璧な成功を夢みて奔走していた脇役たちも、途中からはつまらない恋愛に溺れて結局、中途半端なキャラクターになってしまった。これは視聴率の低下を食い止める秘策として投入された「キャラ変更」だったが、真逆の結果となってしまった。また、クォン・サンウとオ・ヨンソの恋愛話にも制作サイドの焦りが表れ、視聴者に先が読まれてしまう展開となった。

　ただでさえプライドの高い医者たち。しかも今回のドラマでは、各界最高の権威が一堂に会した。当然、視聴者は医師同士の緊迫した心理戦とライバル意識が描かれるものと期待していた。ところが、本ドラマではVIP患者と一般患者の単純な争いのほうが目立っていた。

　なお、放送終了後にクォン・サンウは次のように感想を語っている。

　「今回の主人公は、今まで演じてきた人物とは全く異なるキャラクターだった。自分なりに試行錯誤を繰り返しながら役柄に没入するための努力をした。残念な結果になったが、医学ドラマという新たなジャンルに挑戦することができたので自分にとっては良い経験だった。」

　この時、豪華キャストなのに大コケしていた過去の映画「宿命」の悪夢がよぎっていたはずだ。
　
　登場人物の「夢と野望」を抱きつつ生き残りをかけて必死に戦う姿ではなく、机上の空論にスポットを当てた展開が続いたのだ。もしも、病院の裏側や名医たちの心理をもう少し綿密に観察した上で台詞（せりふ）の調整があったなら、このドラマは当初の予想通り大成功を収めたはずだ。

　視聴率だけでドラマを判断してはいけないが、ドラマのヒット要因はシナリオや脚色にあることが改めて浮き彫りとなった。いくらネームバリューのあるスターたちが共演していても緻密に脚色された台本がなければ無用の長物なのだ。