チョ・ミンス=20日、ソウル(聯合ニュース)
チョ・ミンス=20日、ソウル(聯合ニュース)
「取り替えたりしません。主演女優賞より金獅子賞のほうがいいんです」――。
 今年のベネチア国際映画祭でコンペティション部門最高賞の金獅子賞を受賞した韓国映画「ピエタ」(キム・ギドク監督)に主演したチョ・ミンスは、主演女優賞の有力候補でもあった。しかし同映画祭では、金獅子賞を受賞した作品にほかの賞を与えないというきまりがある。「もし二つの賞のうちどちらかを選ぶとすれば」という質問に、チョ・ミンスはためらいなく金獅子賞を挙げた。

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 帰国後のあわただしい日々がどうにか落ち着き始めた20日、チョ・ミンスがインタビューに応じた。受賞した瞬間について聞くと、「言葉ではとうてい言い尽くせないほどに素晴らしかった」との答えに続けて、そのときの様子を生き生きと語った。別の作品が主演男優賞と監督賞を受賞した瞬間、彼女は「ピエタ」が金獅子賞だと悟った。ほかの言葉は何一つ聞き取れないのに、「キム・ギドク」という言葉を聞いた瞬間、大声で叫んでしまった。緊張していた監督が弾かれるように立ち上がり、彼女は横で力いっぱい一生懸命拍手したが、胸がいっぱいで何も話せなかったという。


 外国人が埋め尽くす会場の中での最高賞の受賞。「主演女優賞だったら、そこまで注目されなかったでしょうし、感激的な雰囲気もあれほどではなかったでしょう。だから、取り替えたくありません」。
 金獅子賞は監督だけでなく映画にかかわったすべての人が受け取る賞のため、より重みがあり、また、一生ついてくるものだとも聞いた。韓国映画が初めての最高賞を受賞し、その中に自分もいたことが心からうれしいと語った。
 閉幕式後はいくつものパーティーがあったが、金獅子賞受賞者だったためどこでも出席できた。受賞した東洋人はほかにおらず、警備係が顔パスにしてくれたことも楽しい思い出だ。

 とはいうものの、主演女優賞を逃した残念な気持ちが完全に消えたわけではない。欧州の映画祭は監督が中心と聞いていたし、彼女は久々の映画出演で、映画祭に行けることだけでもラッキーだと考えていた。しかし、配給会社側が彼女の名前がよく出るとしきりに言い、ベネチアでのマスコミ試写会でも彼女の名が挙がったと聞くと、素直に喜ぶ気持ちだった。授賞式で主演女優賞の発表が終わり、キム監督に慰めの言葉を掛けられた時には「ちょっと憎たらしかった(笑)」 とも。だからこそ、どうか金獅子賞を、と祈った。

 ピエタの受賞はもちろん喜ばしいことだが、女優としてのチョ・ミンスを映画界と観客が改めて見てくれたことも大きい。
 これまでのドラマでは、演技やキャラクターに限界を感じていた。キム監督の作品が多くの劇場にかけられるとは期待しなかったが、どう評価するにしろ映画関係者は見ると思っていた。「彼らに、私にこんな面があると、これまで表現する機会がなかっただけに表現してみせられることだけでも良いチャンスだと思いました。ここまでこられたのはサプライズですよね。だから余計にありがたいんです」。

 いくら映画が監督の芸術と言われようと、キム監督が作家主義的な監督と言われようと、チョ・ミンスはその中で役者として大きな役目を果たした。
 彼女がキム監督のこれまでの作品を冷静に分析したところ、役者が演技力を評価されることはあまりなく、監督は役者を使ってただ自分の話を伝えていると感じた。彼女は「私もそれなりの役者をしてきたのに、どうかすると監督に飲み込まれてしまうという気がしました。見せられる部分を悩み抜いた上で臨んだのが、良い結果を生み出せたようです」と振り返った。

 キム監督は最初こそ何度か演技に注文をつけたが、その後は彼女にほぼ任せてくれた。監督の台本はディテールがない部分が多く、各自の理解の応じて演技が変わってくることもあり得るが、彼女は自分なりに解釈し、細かな表現を工夫した。
 暴力や性的な表現のレベルも、チョ・ミンスの意見で当初のシナリオより抑えられることになった。これまでのキム監督の作品で、特に女性の描き方に納得できない部分もあった。いくつかのシーンでは、自分には表現できない、そうする必要があるのかといった意見を出し、その結果、監督が尊重してくれるところも多かった。おかげで高齢者も鑑賞できる作品になったと考えている。

 最後に受賞による変化について聞くと、チョ・ミンスは「私の生活で変化したことは特にありません。これが20代だったら、浮かれて、自分がすべてを得たかのように勘違いもしたでしょうが、この年ではそうはなりませんね。今だけにすぎないということを知っていますから。後々、幸せな気持ちで振り返ることのできる思い出をひとつもらったと思い、感謝しています」と答えた。

 キム監督からは新しい映画のシナリオを見せると言われたが、断った。今はもう少しだけ、ベネチアでの余韻に浸りたい気分だ。

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