【ソウル聯合ニュース】日本の著名演出家、蜷川幸雄氏は幕が上がって3分以内に観客をひきつけることで知られている。 
蜷川氏の作品観は明確だ。疲れた日常を忘れようと公演会場を訪れる観客に夢のように美しい視覚的恍惚(こうこつ)を与えるというものだ。「目の演劇」と評されることも多い蜷川氏の作品は、日本でも海外でも大衆的かつ商業的で、理解しやすいと言われる。
その蜷川氏が、2011年の「アントニーとクレオパトラ」以来となる2度目の韓国公演を来月下旬に行う。今回の作品は日本の二人の剣豪を素材にした演劇「ムサシ」だ。
蜷川氏は今回の演劇について、宿命のライバルだった宮本武蔵と佐々木小次郎の最後の勝負にまつわる話と紹介した。
二人が戦った「巌流島の決闘」で、佐々木小次郎は命を失ったと伝えられているが、作家の故井上ひさし氏は、「小次郎が死んでいなかったとしたら」という前提でその先を描いた。演劇「ムサシ」は巌流島の決闘から6年後に、佐々木小次郎が小さな禅寺で宮本武蔵に再会したという話だ。     
武士は日本人にとって、ある意味で憧れの対象だが、その一方で人を殺すために修行している存在だ。「ムサシ」では、周囲が二人の決闘を止め、復讐には意味がないと説こうとする。そこに興味を持った。蜷川氏はそう語った。
蜷川氏は日本の伝統劇の要素、あるいは仏壇や桜といった日本ならではの素材を加え、シェークスピアなどの西洋古典を解釈して、世界に名声を広めてきた。1999年には非英語圏の演出家として初めて英国の劇団、ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの演出を手がけ、「リア王」の公演を成功させた。
蜷川氏は「ムサシ」についても、日本的な色彩に満ちているが、シェークスピア劇のように誰もが共感できる話だと強調した。
「ムサシ」とシェークスピア劇の共通点について、「普通の人々の欲望が描かれていて、それぞれが望んでいるものが何なのか、はっきりと出ている」と説明。そして舞台外のすべての世界、すべての階級が描かれている点もシェークスピア作品と似ているという。また、武士が修行する姿がタンゴ風の音楽に合わせたダンスにだんだん変わっていく場面は、シェークスピア文学の風刺的特徴とも通じる。「『ムサシ』には日本人でも韓国人でも共感できる部分が存在するはずだ」と語る。
今回の作品でもう一つの注目点は出演陣だ。蜷川氏は若手俳優を偏見なく起用するが、灰皿を投げつけるほどの厳しい稽古をすることでも有名だ。にもかかわらず、多くの俳優が蜷川氏に呼ばれるのを待っている。
今回の来韓公演には映画「デスノート」や「バトル・ロワイヤル」などで韓国でも知られた藤原竜也や、次世代のスターと目される溝端淳平などが出演する。
蜷川氏は演出する演劇が商業的すぎるという批判と戦ってきた。1969年に演出家としてデビューした蜷川氏は、社会性の強い実験的な演劇で注目を集めたが、1974年に大劇場に進出し、「変節者」というレッテルを貼られた。しかし蜷川氏は、興行性と芸術性が調和した質の高い大衆劇を相次いで成功させ、日本演劇界のスター演出家として再評価された。
蜷川氏は2度目の韓国公演について、「とても楽しみで、韓国で呼んでくれればいつでも飛んで行く準備ができている」と語った。ただ反日感情などを意識してか、「観客が自分の作品を受け入れてくれないのではないかとの心配もある」と胸の内を明かした。
その一方で蜷川氏は自らの作品に自信を見せた。うまくいけば、幕が上がって3分以内に韓国の観客を美しい劇の世界へ導くことができると確信している。「オープニングで美しい場面が出てくるので、注目して欲しい」と語った。
蜷川幸雄演出「ムサシ」は3月21~23日 ソウル・駅三洞のLGアートセンターで公演される。

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